France 2 TV企画 COMPLEMENT D’ENQUETE ” Nucléaire – la catastrophe qui change tout” (ビデオ)、フランス2TV番組、《コンプレマン・ダンケート、「原子力、すべてを変える災害」》、長さ1時間55分、2011年4月18日放送。ビデオ掲載(下)

注記: フランス2テレビ企画、《コンプレマン・ダンケート(「調査の補完」の意)》は、社会問題、政治問題、事件などの深奥を調査し公表することを目的に制作されているフランスのテレビ・ルポルタージュで、敏腕ジャーナリストとして知られるBenoit Duquesne(ブノワ・デュケンヌ)が現場の責任者のインタビューや取材映像をまとめ、問題の中心に迫る司会をする。90分番組。カナダのケベック(フランス語圏)でも再放送される。特番「原子力、すべてを変える災害」は1時間55分といつもより長く、フランス国民の関心の高さを繁栄。ちなみに、原発問題に関するこの番組は、現在フランス2TV のビデオの再生回数でトップにランクされている。…

注記2: このブログでは、115分という長さの番組を全訳することは困難なので、番組の構成全体を浮き彫りにすることを中心において要約することにする。

急いでいる方へ、番組の要約:

・福島原発事故のあと、世界はどのように変わるだろうか。ドイツは原発廃止へ大きく動き出した。フランスは?
・フランスは日本のように世界でも一番古い原発を有している。耐用年数を過ぎた原発はどうなる? 延命するためのメンテナンスあるいは廃炉や解体はどのように考えられ、どのような現実問題を孕んでいるか。
・フランスの原発事故発生回数は年間750回。なかでもレベル2の事故発生は、1999年の大嵐でフランス全体が被害をこうむったときで、炉心が浸水して制御が利かなくなった。事故のあった原発責任者にインタビュー。
・フランスで利用される電気エネルギーの数的分析に言及し、EDF フランス電気会社原子力発電総合ディレクター、ドミニク・ミニエールにインタビュー。ほんとに安全?
・原発の大問題点、放射性廃棄物の処理。フランス全体の核廃棄物および放射性廃棄物を貯蔵する大センターを取材。廃棄物ストックセンターの責任者にインタビュー。密閉、それでも漏れる放射能。
・1991年に閉鎖され、廃炉が決定した原発の解体作業は今も続けられている。解体中の原発の現場取材と責任者のインタビュー。この原発解体に要する年数は早くて35年、完遂は2025、6年あたりが目処だ。
・ウラニウムは数10万年間高度の放射能を出し続ける。
・シャンパーニュ地方の放射性廃棄物貯蔵庫建設反対運動。地下490mのところへ廃棄物をストックする構想で工事が進んでいるが、本当に安全だろうか? 70年代にドイツで同じように地下にストックした放射性廃棄物が危険な状態になり、地下水を汚染し始めている。
・ブルターニュの閉鎖した原発の解体工事に住民が反対。解体作業は中止。廃炉は常に高度の放射線を放出する。解体せずにそのまま閉鎖し放射性物質を外に出さない。移動して他を汚染させない。
・フランス、エコロジー大臣のインタビュー。原発以外の新しいエネルギーを見つけられるか?
・政治と社会問題が浮き彫りに。新エネルギー推進を提唱したサルコジ政策はいずこへ。地域住民や政治家の新エネルギー対策がどうしてうまくいかないか? 取材は、ジロンド県の市長、エコロジー協会、そして国会で社会党議員、UMP議員を直接インタビュー。新エネルギー対策を阻む部分へ焦点をあてる。「エコロジーよりエコノミー」
・エコロジー協会の原発反対活動、再生可能なエネルギー開発への努力。
・エコロジー、緑の党書記長セシル・デュフロにインタビュー。原発、ガス、水力、エオリアンなどの発電経費の比較で、一番安いのは原発というのが定評だが、裏に隠れた経費はなぜ話題にならない?
・フランスに20年住む日本人レイコは福島県出身。今回の事故で福島に住む両親の元へ世話をしに帰えることを決断した。実家の周辺で採取した野菜をフランスのラボラトリィARCOが分析し、セシウム137、134、ならびに放射性ヨウ素131を検出。 いずれも人体へ影響を及ぼしかねない量。取材は福島近辺の市場へ。ある八百屋は、「ときどき産地偽装の疑いがある野菜が入ってくる」という。
・ ARCO研究所の放射線研究家のインタビュー。原発のリスクと放射線の健康へのリスクへ言及する。
・結び。原発を選ぶかほかのエネルギー源を開発するか、チョイスは社会の問題。

フランスTV特番、《コンプレマン・ダンケート、「原子力、すべてを変える災害」》 ・・・

[問題提起]

チェルノブイリのあと、があるなら、福島(原発事故)のあと、がある。ドイツは原発の転機を迎えたかのように廃止論が一挙に進んでいるが、フランスは今後どういう方向に進むのだろうか。フランスは世界一の量かつ日本と同じように古い原子力発電所をかかえている。「安全性」と「確実性」は常に提唱されてきたことではあるが、フランスの原発はEDF フランス電力会社が言うように本当に安全なのだろうか。撮影現場をノジャン・シュール・セーヌ(首都パリに一番近い原発のある町、パリからの距離は108km)にある原子力発電所に設定して、問題を掘り下げていくことにする。(ノジャン原発の内部案内、原発責任者のインタビュー)

フランスの原発事故は公表されている数、年間750件。ほとんどが小さな事故ばかりで原発の外に放射線が漏洩するような事故ではないが、過去にレベル2の事故を記録している。1999年、フランス全土を大嵐が襲ったとき、ジロンド県にある原発が浸水。炉心は自動で停止したが、嵐と浸水でジェネレーターが故障してメルトダウンを越しそうになった。事故の発表はそれから8日後。事故後の見通しが利いてはじめて情報公開をしたことになる。事故が起きた原発は、ボルドーから50kmほど北に上ったブライエ原子力発電所で、4つの炉心を持ち、核燃料量は80トン。広島の爆弾Aの1000倍に匹敵する量だ。事故のシミュレーションを原発内で職員とともに行う。ジロンド川の増水に備え、県はEDFに対し堤防を高くする工事を勧告していたが、EDF側は工事をひき延ばしていた。1999年の嵐による川の増水は原発の炉心を水に浸けて事故を起こしたが、地域の環境保護団体は、「満潮時でなくて助かっている。もっと水が多かったら放射能は川へ流れ出ていたはずだ」と証言する。この事故のあと安全対策強化で堤防工事が行われた。
またこの原発は耐用年数30年を見越して建設され、今年がその30年目。「廃炉にするんですか?」というTVの質問に、ブライエ原発責任者のデュテイユ氏は「いいえ、これからも原発は稼動し続けます。原発はこれまで常に改善し続けてきたので十分な稼動性と安全性を備えているからです」と答えた。ブライエの町は、この原発のおかげで職もありまた住民のための施設もたくさんできるほどに潤ってはいるのだが・・・。

「EDFは、安全だ、対策を施している、と言い続けているが、福島だって同じように大丈夫だといい続けてきたのに、あんな大事故になったではないですか。フランスも大丈夫とは言い切れないのでは? 」という質問に、「いつも改善を続けているのは安全対策にしても同じことです。日常の安全対策と、緊急の場合の安全対策を並行して思考していくべきでしょう。またコンセプト的な部分と現実的な部分も分けて改善していく」と、EDFフランス電気原子力発電ディレクター、ドミニク・ミニエールが答えた。

フランスの数字についてフランス2TV 調べ: 原発炉心数58、原発の数19、原発が賄う電気エネルギーは80%、総体的なエネルギーのうち原発が賄うのは16%、原発の寿命25年、原発建設費用50億ユーロ、年間のメンテナンス費用炉心一基につき6億ユーロ。

[膨大な廃棄物処理にかかる隠れた費用と危険性は?]

シャンパーニュ・アルデンヌ地方にあるスレーヌ放射性廃棄物貯蔵所は、フランス全土の原発から廃棄物が寄せられるフランス最大の廃棄物ストックセンターである。野原に高さ8mの立方体のコンクリートの密閉貯蔵庫が立ち並ぶ。年間2万個の廃棄缶が全国から寄せられるという。放射性廃棄物の量は膨大だ。1982年まで海底に沈められていたが、海への放棄が禁止されてのち、この地方に放射性廃棄物貯蔵センターを設ける事が決定した。廃棄物はドラム缶のような缶に入れられて50cmの厚さのコンクリート容器の中でコンクリートで固めて密封される。当初はコンクリートによる完全密封が謳われていたが、数年後放射線が外へ漏れていることが発見された。センターの責任者は、「これから20年もすればもっといい方法が見つかるはず」という。「現在ノジャンから来た廃棄物入りの缶を処理していますが、これらは短命な放射線廃棄物質です」、「短命とは、どのくらいですか?」というTVの質問に、センターの責任者は、「300年です」と答えた。一方水の中にストックされているウラニウムは数10万年放射能を出し続ける。(現場取材)

同じアルデンヌ地方の丘の懐に、1991年に閉鎖された小さな原発がある。建設当時最良の原発といわれたこの原発は、閉鎖後20年経った現在もまだ解体作業中なのだ。原発建築内のすべての構築物を廃棄するには少なくとも35年はかかるという。そのあいだも厳重に警備を行っていかなければならない。解体されていく原発内のパイプや鉄骨のすべてが放射性廃棄物とみなされ、危険な作業が注意深く行われている。一日に処理できるのは10ピース程度。ちなみに廃材の再利用は99%不可能。(現場取材)

シャンパーニュ地方のビュールに建設中の廃棄物ストックセンターは、地中にある。エレベーターで下ると8分もかかる490mの深さのところへ、トンネルを掘り、厚いコンクリートで作られたパイプに廃棄物を入れていくが、この地方の粘土質の土が放射線を断絶するというのがこのストックセンターをここに敷設するための最大のふれこみとなっている。地質学者も1億6千万年この地方の土地は動いていないと保証する。動かない地下に廃棄物を・・・。しかし、ドイツのニーダー・ザクセン州のアースでも同じように「地面は動かない」という前提のもとに1970年代、約13万個の廃棄物を旧塩田坑内に廃棄したが、現在この地域の地下が6mも動いていることがわかった。坑道にはひびが入って地下水が浸入し、廃棄物の放射能が地下水を汚染し始めており、廃棄物を一つづつ回収する困難な作業が始まっている。(シャンパーニュ、ドイツ現場取材)

それでは、原発解体のときの廃棄物をどうすべきか? ブルターニュの古い原発では、閉鎖をしたものの解体作業は行われていない。住民の反対運動が功を奏したもので、EDFフランス電気が解体作業について住民に知らせなかったことを理由に、国務院がEDFにたいし解体の停止をいいわたしてすべての作業が中止となった。現在は原発内を見学できるようにしている。そのあいだに閉鎖されている原発の警備費用は5億ユーロに膨らみ、一方で原発は停止したものの炉心はむかしのまま人間が近づけないほどの放射線を出し続けている。(現場取材)

ナタリー・コシシウスコ=モリゼ、フランス・エコロジー大臣のインタビュー。「原発を脱出してもう一つの新しい時代をつくっていかなければならないのではないですか?」「放射性廃棄物のリサイクルは1、2%ていど。原発はどうしても止められないので原発と共存しながら、エオリアンやソーラーパネルなどの再生可能なエネルギーを考えなくてはならないですが、ソーラーパネルもリサイクルができない廃棄物を出します」と大臣。「結局は、エネルギーの節約です」。

[政治の一転二転、迷走する国民]

2009年サルコジ大統領は、「これから政府は、再生可能なエネルギーの推進に向けて大きな努力をし、世界一の再生可能なエネルギー使用の模範国となる」と宣言をして、ソーラーパネルやエオリアンを取り扱う企業にはっぱをかけた。その上、ソーラーパネルで作った電気を政府の援助のもとにEDFが買い上げるという特別条例を儲け、ソーラーパネルの設置を促進する条例まで作った。政府を当てにした多くの中小企業が資金調達をし、再生可能なエネルギーを敷衍する商売に乗り出したのもつかの間、一年後の2010年、政府は手の裏を返すように、新エネルギー開発へのてこ入れ中止。これら中小企業が軒並み借金に追いかけられるはめに陥ったのはいうまでもない。(ビデオ、2009年サルコジ発言)

[再生可能なエネルギーの開発と敷設への問題]

エオリアン設置に乗り出した地方議員もいる。しかし、エオリアン建設反対派がハラスメントをするなど、地域の賛同獲得は容易ではない。一方、フランス国会でも異変が起きた。エオリアンを建設するに当たって、「建設費用以外に、耐用年の期限がくる20年後の解体作業費を確保しておかなければならない」などという前代未聞の建設条件が付け加えられたのだ。エオリアン推進者は、「原発を作るときに解体作業費を見込んでおけ、なんていう法律は無いですよね。なぜエオリアンを作るのに解体費用が必要なんですか」と、怒りを隠しきれない。あらゆる逆風にあおられ、エオリアン一基を建設するのに以前は3年ですんだものが8年はかかるようになった。
社会党議員の一人が国会で、「国会には、数多の原発賛同者がいるんですよ」と答えた。そのとき偶然にもTVカメラの前を通りかかったのは、エオリアン解体費用の規制条項を作った張本人のUMPの議員。TV取材に応じる。UMP議員の地元は、原子力のAREVAアレヴァ社の息がかかった地盤だという。AREVA社やEDF社が地域や地域の人を潤す経済の図式が・・・。(ジロンド県、パリの国会現場取材)

エコロジー、緑の党書記長セシル・デュフロのインタビューに際し、フランス2TVは発電にかかる費用を掲示した。
フランス2TV調べ: 原子力発電1時間1MWにつき46ユーロ、天然ガス1時間1MWにつき60から70ユーロ、水力発電60から80ユーロ、地上エオリアン80から90ユーロ、オフショアーエオリアン160から180ユーロ、ソーラーパネル300ユーロ。「原子力発電が一番安いという計算ですが」。「とんでもない。これは発電のみにかかる数字を並べただけで、目に見えない部分にかかるまったく別の経費については無視されていることが分かります。たとえば廃棄物処理とか、メンテナンスとか、解体作業とか。何十年もかかる解体作業にはいったいいくらかかるか見当もつかない」と答えるデュフロ書記長。「 危ない原発をやめて、徐々に再生可能なエネルギー開発に取ってかわっていったほうがよっぽど明解です」。

[放射能]

福島原発事故の現実について、フランスに20年在住しながら、今回の原発事故で福島の実家の両親の元へ帰ることを決意した日本人女性「レイコ」の姿を、カメラが追った。福島では原発周辺地域が放射能で汚染され続けている。レイコは両親がどのような環境の中で生きているのか、実家近辺の農家などから野菜を採取し、フランスTVの協力によって、フランスの国家認定付放射能検査ラボラトリーACROへ野菜の検査を依頼。結果、大きく許容量を超えたセシウム137、134、また放射性ヨウ素131が検出された。福島の市場では野菜がいつものように売られている。「大丈夫ですか?」とたずねるレイコに、大概は「ここに入っている野菜は検査済みなので、大丈夫」と答えたが、ひとりの八百屋の主人が、「どうも、ときどき産地を偽装しているらしい野菜が届くことが・・・」と口ごもった。(現地取材)

取材は再びノジャンへ。国家認定付放射能検査ラボラトリーACROの(Association pour le Contrôle de la Radioactivité de l’Ouest 、チェルノブイリ事故のあとに設立)科学研究員のインタビュー。「福島原発はまだ事故の収束がいつになるかわからない危険な状態が続いています。放出される放射能は環境のみならず人間の健康へ大きな被害をもたらすことは明白です。チェルノブイリ周辺地域は、事故後25年の今日も汚染された地域は立ち入り禁止のままなのを見ても分かるように、放射能はいまだに除染の方法がありません。現代では不可能な技術なのです。放射性ヨウ素131は80日間で放射線を半減するというだけで、放射線を出し続けます。ヨウ素129がある場合、放射線は1600万年続きます」と、ACROのバルベ氏。

[原子力は果たして人間が扱ってはいけない魔物(サタン)なのだろうか]

最大のリスクを孕んだ原子力について、いま世界全体が積極的に討論していくことが望まれている。社会が「転換」を受け入れるかどうか。これからの世界は社会(われわれ)の選択にかかっているのだ。(Complément d”enquête, fin)

http://www.acro.eu.org/