ジェフ・クーンズ展 2015年パリ

Jeff Koons(ジェフ・クーンズ、本名Jeffrey Koons)の回顧展がパリ、ポンピドー・センター国立近代美術館で行われている。1955年アメリカ、ペンシルバニア生まれ。1980年代初頭にネオ・ポップの旗手として流星のように現れた、という記憶がある。ポップアートはもともと60年代、大衆の生活や大量生産社会を描いて時代を浮き彫りにした大きなムーブメントであったが、70年代の抑制的なミニマリズムやコンセプチュアル・アートを経て、80年代初頭ジェフ・クーンズによって再び日常社会をモチーフに、手に取るものをすべてアートにしてしまう楽観性と自由を享受する新しいアートとして出現する。自分の表現についてクーンズは、「私の作品にはポップ・アートに対して皆が考えるような世間への皮肉や作品に隠された意味などはまったく存在しない。意味があるとすれば、作品をはじめて見た人が感じるものと、作品のあいだになんの溝も存在しないことだ」。

キッチュなものを「高度なアート」へ作り変えるジェフ・クーンズの制作方法には、さまざまな方面で論争や問題が起きた。今回のポンピドー・センターの回顧展でも豚の横に寝そべる美女の彫刻の構図が、昔のフランスの女性雑誌の広告写真と同じ構図だったことから、著作権問題を言及され、彫刻は結局展示からはずされるという事態が起きた。そこらへんに転がっている雑誌から適当な写真をみつけては、彫刻にして発表し、結局おおもとの写真の著作権保持者から訴えられたことも一度や二度ではない。これは、つい知らないで使ってしまったというものではなく、読んで捨てられるいわば使い捨ての雑誌の写真を拾って自分の作品にしてしまうのは、彼の故意の制作方法なのだ。

かなり前、Arteテレビでジェフ・クーンズの特集をしていたとき、制作風景で白い仕事着を着たクーンズが、ポケットから紙切れを出して助手に「こういう絵が描きたいんだ」と説明すると、助手がいろいろと質問をする。「ケーキは白いホィップクリームと赤いさくらんぼで・・・」。描くのは助手でクーンズ自身ではない。また次の場面では、机の上にあったきらきら光る赤いハートのオブジェを取り上げ、インタビュアーに「次はこれを大きくした彫刻を作りたいんだ。これはチョコレートの箱についてたやつ」と言った。このオブジェはリボンをつけた赤い大きなハートになって、ヴェルサイユ宮殿での企画個展と今回ポンピドー・センターにも展示されている。

1990年のジェフ・クーンズは突然ポルノ写真家になった。イタリアのチッチョリーナと結婚して写真を撮ったMade in Heavenがそれだ。1992年からは野外に、花で覆った大きな犬のインスタレーションをはじめる(ドイツ、スペイン、フランス・・・)。

毎回あっと驚かせる変身をしつつネオ・ポップの花を次々に開いていったクーンズは、今年60歳。ポンピドー・センターの個展はそんな大きな波をいくつも作ってきた作家のパワーとは裏腹に、なんとなく静まり返っている。35年の活動は確かに長いが、美術館という雰囲気がそうさせるのか、ほんとうに「過去」に吸い込まれてしまうのはまだもったいない。(S.H.)

Jeff Koons, Paris 2015

Jeff Koons, Paris 2015

Jeff Koons, Paris 2015

Jeff Koons, Paris 2015

 

Jeff Koons, Paris 2015

Jeff Koons, Paris 2015

ジェフ・クーンズ展、ポンピドー・センター国立近代美術館、パリ 2015年4月27日まで。