2018年のフランス文化省の目標の一つ、フェイク・ニュース対策立案に向けての動き

2016年アメリカ大統領選挙以来浮上したロシアのハッキングは、未だに活発に続いているという。虚偽のニュースを充満させて真実を撹乱させ、人心を扇動する「フェイク・ニュース」。その実態を見極めるため昨年10月アメリカ議会は、 Facebook、Twitter、Googleに要請して同企業のアカウントやコマーシャルの利用数を調査した。結果、Facebookのリサーチセンターが、ロシアのリンクページに約1億2600万人のアメリカ人が接触していることを突き止め報告するに至った。この数はアメリカ人有権者の半数に匹敵するという。(CNN、2017年10月31日付ニュース

こうした事実を受けてヨーロッパでも特に選挙時におけるフェイク・ニュースによる候補者に対する汚名行為や事実の歪曲が、過去行われ現在も行われつつあることに注目し、年頭の挨拶にあたってマクロン仏大統領はフェイク・ニュースの統制にのりだす方針を打ち出した。

すでに篩にかけられて公表される大手の放送局の情報より、Facebook、Twitter、Googleなどこれまでいかなる規制も存在しなかったソイシャル・ネットワークの無制限な情報をどう取締まるかが問題となるのは明らかだ。

http://www.lejdd.fr/medias/francoise-nyssen-sur-mathieu-gallet-le-csa-a-tranche-en-toute-independance-3564446

 

Françoise Nyssen revient sur la révocation de Mathieu Gallet.

上:フランソワーズ・ニセン仏文化相  Françoise Nyssen  (Bernard Bisson pour le JDD)

ジュルナル・ド・ディマンシュによる仏文化相ニセン氏へのインタビューから

Q: 年頭にマクロン大統領が発表したフェイク・ニュースに関する法案ですが、今どういう方向で進んでいますか?

FN: 偽のニュースは、民主主義に対する重大かつ不利となる脅威です。私たちは、放送を罰した1881年法のような概念へは戻りません。しかし、情報の流通はかなり加速しており、特に昨今、多くの視聴者を買うのが簡単になっています。現在3月を期限に取り組んでいる法律は、「情報への信頼」に関するもので、主に選挙期間中に誤ったニュースが勢いを持って広まったときなどに、迅速に対応出来るものでなければなりません。法律は、プラットフォーム(各ソイシャル・ネットワーク企業が持つ)へ新しい義務を与えるもので、彼らは国と協力をし、スポンサーが付いているものの内容について透明性を持たなければならなりません。虚偽のニュースが表面化したときにその広がりを早急に食い止めるために、司法的手続きが実施されることになります。法律が課す義務を果たさない場合(協力の義務、スポンサー付きのコンテンツの透明性などの)は、制裁が課せられます。

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Q:この法律は、報道の自由を萎縮させる危険があるのではないですか?
FN:それは逆です。悪いお金が良い金を凌駕してしまうとき、つまり偽のニュースが事実の情報を超えてしまうと、報道の自由が無くなってしまいます。この法案は、企業が各々自分のルールを作って行動してしまうと生じる個人の検閲の危険から保護するものです。例えば、クールベの絵画 「世界の起源」の写真を掲載した人のアカウントをFacebookが閉めてしまうということがおきましたが、これは、法的枠組みが存在しないから起きた可能性を浮き彫りにしています。また、メディアにたいする教育にも積極的に取り組んでいきます。

http://www.rtl.fr/actu/politique/loi-anti-fake-news-vers-une-procedure-de-refere-pour-agir-rapidement-7792121362

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CNN 2017年10月31日電子版から、アメリカの選挙戦前後に起きたロシアのプロパガンダについての要点:

Facebookは、2015年6月から2017年8月の間に「インターネット調査機関(Internet Research Agency)」として知られているロシアの政府関連のトロール・ファーム(ネット上で攻撃を仕掛けたり荒らしたりする一連のグループ)によってFB上で作成されたコンテンツに、およそ1億2600万人のアメリカ人が曝されている可能性があると議会に通知。この数は、アメリカ人有権者総数の半分以上に当たり、ロシアが利用したソイシャル・ネットワークが2016年のアメリカ大統領選挙に関与しアメリカ社会全体へ影響を及ぼしたという理解を新たにするものとなった。

CNNが入手した「犯罪とテロに関する上級司法小委員会」の書面のコピーによると、2900万人の有権者がこの「インターネット調査機関」から直接コンテンツを提供されており、ユーザー間のシェアでおおよそ1億2600万人がその内容を見た可能性があるとしている。

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Facebookが2015年から2017年にかけて、1140万人がロシアの「インターネット調査機関」が買収した広告を見たと推定。しかし、トロール・ファームがリンクしたページによって投稿されたコンテンツの完全な到達範囲は、この10倍以上であったとみられる。(Facebookによれば、これらのページからの投稿はFacebookの全体的なコンテンツのほんの一部に過ぎないという。)

Twitterは、ロシアの「インターネット調査機関」にリンクされている2,752のアカウントを特定、これらは、2016年9月1日から2016年11月15日までの間に合計131,000件のツィートを投稿。「インターネット調査機関」に限らずロシア関連と推測される36,746のアカウントを発見。選挙関連のコンテンツをオートマティックに発信していた。これらのアカウントは、約140万本のツイートを作成し、2億2800万回のリツィートをしていた。

FacebookとTwitterの両方は、ロシアの「インターネット調査機関」関連のアカウントが、プラットフォームの全体的なコンテンツのごく一部しか占めていないことを強調。また、2016年大統領選挙に先駆け、外国のインターフェイスや偽のアカウントに関しどのような安全対策を取っていたかなどそれぞれの措置についても詳細に説明している。

大部分の広告は、LGBT問題や銃問題、移民問題などに触れ、イデオロギー的なスペクトルを持ち社会の分裂につけ込む政治的なメッセージに焦点を当てているようだという。 ロシアの「インターネット調査機関」は450のアカウントを持ち、3000ほどの広告ページを買収して約100万ドルを費やしている。etc.

My opinion:  流石はフランス文化大臣。クールベの芸術をFBにアップした人のアカウントがFBの判断で閉められたことへ、芸術の理解が足りず、また明快な罰則となる法的基準がないことによるものであるとしているのは、芸術の国の大臣の言である。ヌードも芸術であれば公の場で鑑賞されて当然という文化は、実は、なかなか判断や受け入れが難しい。ロンドンのエゴン・シーレ展の地下鉄のポスターは絵の胸や腰の部分が「sorry」という字で隠されていて、検閲でもかけられているようだった。実際、問題のクールベの絵「世界の起源」は、あるコレクターがひっそりと自分の家で自分だけで鑑賞するためにクールベに注文をして描かせたものだという。その絵が転売されて国の所蔵となり、美術館に入った。もともと、ポルノのように描いた絵が美術館に入ることで芸術になった(?)と解釈するとすれば、美術館は社会の中のある種の常識を反転させる巨大な装置、あるいはキー概念であると言えるだろう。

エゴン・シーレのポスターと検閲:http://www.exponaute.com/magazine/2017/11/14/quand-londres-et-hambourg-censurent-des-affiches-pour-une-expo-egon-schiele/

社会において、思想、宗教、移民問題、ジェンダー、LGBTなどなど。数十年前までは公にすることを憚った話題が、ひっくり返って(あるいは、積極的にひっくり返して)公然と表に出すことを賛美し、一方でタブー視する人々を不理解であるというようになった今日の時代の反転の中には、やはり判断が難しいものもある。意識の時代の流れから多勢に無勢でなし崩しにそうなった、というものが存在するのも事実である。例えば、オーストリアの政権を極右が主導するようになったことなど、10年前はたった一人極右政党の政治家が大臣職に就いたことで国連が声高にクレームをつけた。しかし、今年の新政権には誰もクレームをつけず、国連の沈黙が欧州の危惧を生んだほどだ。

時代の流転と思想の反転、それらの中でフェイク・ニュースをどのように見分けるのか。

立法化への規範はおそらくアメリカの選挙にロシアが介入したように国際情勢に即した外敵への注視にあるのだろうが、ソイシャル・ネットワークはもともとヴァーチャル世界。アカウントを消せば、それまでの足跡もすべて消える。その人間が存在したかどうかもわからなくなる。そうした存在も知れぬ人間が出すフェイク・ニュース。われわれはとうとうそうした泡沫世界の上で四六時中翻弄されることになってしまっている。

(S.H.)