2011年3月11日の東北大震災と福島第一原発事故という日本の国のみならず世界にとって衝撃的な災害が起きた。金津創作の森の個展では、「空気が危ない?」プロジェクトを通してこの厳しい現実へどのようにアプローチをするべきか、長いあいだ思索をすることになった。

その結果、「空気が危ない?」プロジェクトの大本の展示に加え、アート・コア美術館のギャラリー部分を利用してヨーロッパからの目を紹介するコーナーを設けることにした。

題して「外からの目」。 福島原発事故をモニタリングして毎日新しいニュースをアップするフランスを中心とした欧州のブログを12個選択し、一番新しい内容をプリントアウトして 6mの壁に貼り付けたもので、事故から7か月後(展覧会当日)も真剣に真実を求めて資料を集めて公表し科学的に災害を見極めようとする、日本からはなかなか 見えない日本に対する「外の目」を紹介した。これは、「空気が危ない?」プロジェクトが、欧州各地に設けられた5000箇所の空気観測所のモニタリング(数多くまた長いあいだの観測)を 集計してえた結果をまとめた報告書からインスピレーションを得たことから、ものごとの観測の「目」の置き場をもとに発想したもので、福島原発事故をめぐる第三者の目を紹介することで、科学的な姿勢でおこなわれる「モニタリ ング」のようすを浮き彫りにして真実を求める外からの目を紹介しつつ、日本をとりまく見えない壁を取り払おうとこころみたものである。…

金津創作の森は、プロジェクトの総合展の舞台として重要な意味を持つ。「外の目」を導入することから、「外への発信」へ。この展覧会は、さらなる発信のあり方を求めてインターネットの活用を導入した。2010年暮れに私の構想を引き受けた金津創作の森は、2011年6月からパリの作家とのあいだに毎日のように綿密な連絡を交わし、8月初旬から作家が指示したプランに従って作品の制作に取り掛かっている。夏から作家がレジデンス入りして作品が完成するまでの数ヶ月にわたる緊密な作品制作と完成作品のようすを、創作の森のキュレーターや作家がビデオに撮り続け、逐次編集してYoutubeにオンラインした。オンラインされているビデオは22本。制作開始から、作品完成、また展覧会が終了した後の作品のようすまでYoutube にアクセスすれば常に見たい段階を好きなだけ見ることができる。 インターネットによる世界からの不特定多数のアクセスを暗示するのは、ほかならぬノートPCである。

<展覧会の概要>

「空気が危ない?」プロジェクトは、初めてエコロジーを意識したプロジェクトとして長いリサーチを経た2004年 1月に構想したものである。人間社会の大気汚染が原因でヨーロッパの森林の再生能力が低下し始めている兆候について、欧州連合が「枯死」と針葉樹の「脱 色」という植物の症状に表れていることを伝える報告書で公表したことから、大きなインスピレーションを受けた。

2004年1月当初から、森林の窮状を視覚的に訴えつつ脱色する植物に色をつけなおす作品「光合成の木」、「光合成の木」が吐き出す「酸素分子」、そして 光合成を促進する太陽光子の電気エネルギー的な働きを象徴する「風車(最初の命名は、空気製造機)」の三つのエレメントが要となって「空気が危ない?」プ ロジェクトを構成している。

作品「光合成の木」は、構想から2年半後の2006年秋、プロジェクトとは単独にアルジャントゥイユ市の企画で初めて実現した。その後、ニューヨークや東 京でも発表したが、「光合成の木」は展覧会ごとにその場の環境とその時節の太陽の影響を受けて、それぞれ違った生き方をしている。

太陽光線に当たると色を付ける人工の特殊ピグメント(フォトクロミック)を練りこんだプラスチック円盤を数千枚枝に取り付けた「光合成の木」は、太陽が出 ると紫色になり、太陽が沈む夜には色が消えてプラスチックは白に戻る。太陽の加減によって植物が働くようすを円盤の色の変化で視覚化する木である。ピグメ ントの反応は早く、また微妙で、直射日光が当たる部分は鮮やかな紫色になり、空を雲が覆うと淡いピンク色になる。また他の円盤や木の枝などが影を落す部分 は、日光がさえぎられてピグメントが反応しないので白いままという、一つの円盤の中でもまた一つの枝に取り付けられた円盤のあいだでもそれぞれ豊富なニュ アンスをみせてくれる。白くなった円盤をつけた夜の「光合成の木」はまた、葉緑素を失って脱色し終には枯死に至る木のゴースト・ツリーといった様相をメタ フォリックにみせる木といえる。

金津創作の森では、プロジェクトの構想以来はじめて、三つのエレメントを総合的に見せてプロジェクトの総括的な展示を展開する過去最大規模の個展となっ た。

今まで一度も実現にこぎつけられなかった最後のエレメント、「風車」。この最後のエレメントが金津創作の森の環境で実現し、構想当初の三つの大柱(「光合 成の木」、「酸素分子」、「風車(空気製造機)」)がようやく出揃いプロジェクトの完全な姿が敷地内に点在することになった。「風車」は構想から7年半と いう時間の趨勢と創作の森の環境との対話の中で、最初のイメージからは大きく変化した。植物の葉緑素(緑のピグメント)に電気的刺激を与えて光合成をさ せ、グルコーズや酸素を作り出すように仕向ける太陽の光子の動きを象徴する線的な躍動をかたちに宿し、創作の森の環境と対話する大きさや色を選定してエン トランスに建った。色はもちろん、光合成を機能させる葉緑素の色である。この作品は、2015年まで保存され一般公開され続ける。

金津創作の森には、光合成の木が3本、酸素分子が3個配置されており、うち二つの酸素分子は一本ずつ光合成の木を内包している。「光合成の木」と「酸素分 子」との関係を密接にする形である。酸素分子の盛り土の中には、菜種とアマランサスを播種した。菜種は、栄養が偏った土壌を正常化する力を持ち、菜種を植 えると次に植える作物がよりよく育つので輪作に用いられるという。植物の土壌を正常化する力を利用する人間の知恵をシンボル化して、菜種を播種した。ま た、アマランサスは空気正常化の植物の一つともいわれるが、なによりその語源である「不死の花」に人間の自然に対する驚きと期待を感じて選んだものであ る。

酸素分子に雨の降る前日を選んで播種した菜種は、一週間もすると発芽しはじめた。11月に発芽した菜種は芽の状態のまま雪の下で冬を越して4月から5月に かけてが開花の時期となる予定だ。

アート・コア美術館の室内インスタレーション「酸素分子、空気が危ない?」は、ちょうど野外の酸素分子の天地をひっくり返して、酸素分子型を布にして天井 に貼り付け、そこから酸素原子である透明球体を吊るしたかたちだ。床には土(水やそのほかの栄養を供給する)から切り離された菜種を10kg置いた。野外 の菜種と違って、発芽をしない。

「酸素分子、空気が危ない?」インスタレーションの隣室はビデオ・インスタレーション。「植物プランクトン」(11分、ブルターニュ 2012)、「アペ ル・デール、空気の誘引」(16分、ルーアン 2010-2011)の日本をループで上映。

水上インスタレーション「植物プランクトン」は、地球上の酸素の60%から70%を供給する川や海の海草やプランクトンにインスピレーションを受けて2011年5月ブルターニュで制作。形は、地球の最初の酸素発生型光合成生物と推測されている植物プランクトンの一種 であるシアノバクテリア(藍色細菌)をベースに展開したもので、プラスチックの比重0.9のおかげで、作品はちょうど植物プランクトンが生息する水と空気 のインターフェイスといわれる水面部分に浮かばせることができた。ビデオ「植物プランクトン」は水上インスタレーションの制作ドキュメンタリーフィルムで ある。

「アペル・デール、空気の誘引」は、2010年ルーアン市の企画で行われた「ルーアン・アンプレッショネ」展の際に制作したインスタレーション「アペル・ デール」のドキュメンタリーフィルム。ルーアン植物公園の入り口から約200mの距離をカバーする「光合成の木」と「酸素分子」の制作風景と作品をまとめたも の。

 

 

(S.H.)

《平川滋子展「空気が危ない? 光合成の森」、展示作品の概要・・・野外、アート・コア・ミュージアム、ギャラリー》

  1. 光合成の木(3本)
  2. 全長30mの酸素分子(3つ)・・・・・各酸素分子は肥料を入れた土で盛り上げられ、菜種を播種。2012年4月5月が開花予定、観覧可能
  3. 風車・・・・・高さ9.5m。2015年まで観覧可能
  4. 室内インスタレーション: 酸素分子、空気が危ない?
  5. ビデオ・インスタレーション: 植物プランクトン、空気の誘引
  6. 外からの目: 欧州のブログ12件
  7. アマランサス
  8. Youtube ドキュメンタリー・ビデオ22本オンライン
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Air Wheel, Kanaz Forest of Creation in Japan, photo:Shigeko Hirakawa

Air Wheel, Kanaz Forest of Creation in Japan, photo:Shigeko Hirakawa

‐空気が危ない?光合成の森
平川滋子個展

金津創作の森(福井県あわら市金津)企画
2011年10月22日から12月11日まで
金津創作の森

<展示作品リスト>

野外展示 :

  • 光合成の木*・・・3本の木、フォトクロミック・ピグメントを混ぜた円盤3000枚
  • 酸素分子*・・・全長30mから20mの酸素分子構造型の盛り土3個、菜種、アマランサス
  • 風車・・・高さ9.5m、コンクリート・ポール、鉄ストラクチャー、車輪

* ほとんどの作品が2012年春まで観覧可能。風車は2015年まで。

アート・コア・ミュージアム – 1:

  •  インスタレーション<酸素分子、空気が危ない>・・・インスタレーション: 21m x 4.5m x 9.5m、ミクスト・メディア
  • ビデオ・インスタレーション・・・「植物プランクトン」 (11分) 2011、「空気の誘引」ドキュメンタリーフィルム(16分)

ギャラリー:

今年の菜種の開花時期まで、一般参観者ののビデオ投稿を受付。

 

Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
Molecule of Oxygen, photo:Shigeko Hirakawa
Molecule of Oxygen, photo:Shigeko Hirakawa
Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
Tree of Photosynthesis, photo:Shigeko Hirakawa
空気が危ない?プロジェクト
空気が危ない?プロジェクト
空気が危ない?室内インスタレーション、アート・コア美術館

空気が危ない?室内インスタレーション、アート・コア美術館