「できるだけ多くの検査をして初期感染者を見つけ、抗生物質と組み合わせたヒドロキシクロロキンを処方すると、重症化も後遺症も避けることができる(5月のBfmTV説明のラウト処方箋)」と、マルセイユの地中海感染症大学病院インスチチュートのディディエ・ラウト医師チームが新型肺炎コロナウィルスCovid 19の対処法を公表したのは2ヶ月前。同時期に政府は、この薬を「病院に収容された重篤患者のみに使用すべき」という政令を出してこの薬の利用に足枷をした。以来今日まで、クロロキン、ヒドロキシクロロキンの効力の検証がきちんとされずに論争が続くフランスは、Covid 19による死亡率が群を抜いて他の国より高い。ラウト医師は、「外出禁止をする必要などはなく、他の国を見ても生活に制約を加えず普通に暮らしている国の方が、外出規制をしている国の人間よりウィルスに強いし、死亡率も低い」と批判。

クロロキンとヒドロキシクロロキン

3月25日、オリビエ・ヴェラン健康相がHaut Conseil de la santé publique (HCSP 公共保険高等顧問)の強い勧告と念を押して、クロロキンとヒドロキシクロロキンの利用を、「入院中の重症患者に限って使用」するように指示をする政令を出した。その意図や意味は未だにあまりよくわかっていない。

「クロロキン」及び「ヒドロキシクロロキン」とは、抗マラリア剤として作られた薬で、関節リューマチの炎症用にも使われてすでに数十年、広く一般的に実績があり、利用法も副作用への対処もよく知られた薬だという。マルセイユのディディエ・ラウト医師は、初期の症状の患者にクロロキンを服用させると重症化と後遺症を避けられるとしてマルセイユでの治療状況を発表し、その効力を主張した。

ディディエ・ラウト医師とは、地中海感染症大学病院インスチチュートの院長で、長きにわたって危険な伝染病の研究を続けてきた名だたる伝染病の専門家である。そのチームは発生する伝染病の即時研究で、数十の新しいウィルスを発見した。当のラウト医師はその生涯の業績に対して2010年、Inserm(L’Institut national de la santé et de la recherche médicale、国立健康・医薬研究インスチチュート)からグランプリを授受している。そのラウト医師が、「1日500mgのクロロキン服用を10日続ければ、大変良好な快復をする。肺炎もこれほど易しい治療はないというくらいに治療しやすくなる(3月のラウト医師発言)」と発言、しかしなんとその翌日に、国立公共健康サービス(フランス健康省)が「クロロキンがCovid 19に効用があるという研究は一切なされていない」という否定文書を出したのだ。

その上の、メディアの批評の混在で、クロロキンとヒドロキシクロロキンは危険物扱いにされるむきも出てきたことへ、元文化大臣のドゥスト=ブラズィ氏(医師)が驚きを隠さない。「これまで大量に使われて世界的に実績のある薬を、毒物扱いはとんでもない話です。薬ですから他の薬と同様、多量に医師の処方もなく服用するのはもちろん危険ですが、ちゃんと医師の管理下で服用するなら危険は実に少ない」。クロロキンの使用で見つかった副作用については、いつの間にか流布した「重大な心臓障害」の報告は皆無だ。「クロロキンが危険物だから使ってはいけない、というのは大きな間違いです」。

ラウト医師のいるマルセイユでは実際、ウィルス検査を多く実施し、クロロキン治療で多くの人が助かったという。「実証されて毒性も全くないと言っていい薬の利用ですよ。Covid 19 は、特別な伝染病ではなく他の伝染病と同じような足取りをたどり、どんどん減少方向にある。マルセイユでは感染者はもう一桁台になることもあり、そのうちなくなります。皆が言ってるような第二波は起こりません」と確信のラウト医師。マルセイユのこの病院はこうして、感染テストと治療を受けたい患者が長蛇の列をなした。

事実、大学病院はこの処方箋を患者に出せるが、一般の町医者は、この政令が足かせをして、同じ処方箋を出すことができないでいる。

Covid 19 治療の明暗を分けるマルセイユと政府の矛盾が、この2ヶ月間、フランスをクロロキン論争の渦の中に投げ込んで浮上のままならなさは、どこから来るものか。

どうして少ない検証結果?

論争がはじまってもう2ヶ月。マルセイユではCovid 19 の感染が終わりに近づいているとラウトチームはいう。そんな時期に至っても、クロロキン、ヒドロキシクロロキンの検証結果がない、というのは不思議な話だ。

4月末、中国では150人に投与したが、効果がなく、その内30%が嘔吐や下痢の副作用が出たという。アメリカも181人に投与したが効力はなかった。むしろ心臓への影響があったため、使用を停止したという報告がなされている。

投与の時期について、「重症化してしまってからでは効果がない」、とラウト医師。「重症化は内臓器官の合併症などが起きる段階であって、ウィルスに対処する時期をとっくに過ぎた段階なので、違う対処法が必要になるから、当然です」。従って、感染の各段階によって別個の検証が必要になると関係者は言う。

フランスでは、わずか80の臨床記録があり、それによると、薬の投与がない場合、快復に25日。抗生物質だけを投与した場合は、12日。ラウト医師チームの処方の、抗生物質とプラケニル(ヒドロキシクロロキン)の治療では、9日で快復、したという。

一方で、ここで記述しておかなければならないのは、Covid 19 感染者の治療に当たる最前線の医師や看護婦たちのことだ。彼らのうち数千人が、ラウト処方箋を予防薬として服用しているというのである。

トランプ大統領、ヒドロキシクロロキンを服用

プレスの前で、covid 19の予防にヒドロキシクロロキンを二週間前から服用していると発表したトランプ大統領はまた、物議を醸した。ウィルスに侵されたら「消毒剤を注入すれば」と言った時は、周囲の医師団やメディアが「家庭用消毒剤は非常に危険で死に至る」、と触れ回らなければならず、それでも消毒剤の問い合わせが爆発して、吸引事故も起きたらしい。今回もメディアや医療機関が、無用の事故を防ごうと躍起になった。「(ヒドロキシクロロキンを)自分で勝手に服用してはいけません。死にます。非常に危ないからやめてください(Fox News)」。

フランスのヒドロキシクロロキンの逸話と、トランプ大統領のそれとが同時発生しているために、マルセイユのラウト医師へ質問が殺到した。「驚きに値するが、そんなのは知らないし関係もない」とラウト医師。

トランプ大統領はすでに3月から、クロロキンを買い占めており、その発表の時もクロロキンを飲んで男性が死亡したという報告があった。クロロキンの致死量(4g以上の場合)を摂取したか、クロロキンもどき(フランスのメディア: クロロキンにもいろいろある)を服用したかどうかわ分からないが、トランプサポーターは盲目的に信じてしまう傾向があるらしい。そうした一般へ向けて、あるTV司会者はこう言った。「トランプ大統領は、非現実なことしか言いません。コンスタントに真実以外のことを言ってきました。ですから、今回のヒドロキシクロロキンの服用も事実ではありません。大統領は、ヒドロキシクロロキンなど飲んでいません」。

ヒドロキシクロロキンの世界への広がり

マルセイユの地中海感染症大学病院インスチチュートのディディエ・ラウト医師チームは、定期的に感染者と患者の治療や快復状況を集計し、自己の論理を裏付けている。

昨日は、Covid 19 対策に向けて、イギリスが、クロロキンを大量購買するという報道があった。一部の情報筋では、フランスは、安価に手に入るクロロキンより高価な薬(クロロキンの400倍の値段をつけた薬が候補に立てられた)を認めたがっている、という暗に政府の製薬会社のロビーを批判する向きも存在する。いつできるかわからないワクチンより、効力のある対抗薬をというラウト医師。この薬の利用は、ヨーロッパやアジア、アフリカにも広がっているらしい。その世界をよそに、相も変わらずフランスだけが、自分の出した政令やらの制約で縛られている。フランスよ、いい加減にしろよ、というネット上の意見が洪水のように流出するのも当然か。

 

以下は、世界各国の感染状況。

死亡率と回復率に注目。

Covid 19 統計 2020年5月22日 世界各国の統計から抽出。この表ではフランスとドイツを比較してみよう。死亡率が極端に高いフランスは、15%強であるのに対し、ドイツは5%弱。ドイツは快復率も高く、90%近くが快復している。これに対してフランスは、まだ50%の患者がCovid 19 と闘っているという数字だ。また、死亡者数に関しては、現実の死亡者数より大きく下回っている数字であることを認識しておかなければならない。数字は病院でカウントされた数字が中心で、そのほかの施設も数に入れられている場合もあるが、家庭での死亡はこれに入っていない。ちなみにフランスは、ル・モンドの推計によると、約1万人がカウントから漏れているという。

 

19 MAI 2020

19 MAI 2020

「死亡率が高すぎる」。ラウト医師

参考:

 https://www.radioclassique.fr/magazine/articles/donald-trump-sous-chloroquine-je-netais-pas-au-courant-assure-didier-raoult/

https://www.france24.com/fr/20200520-covid-19-l-oms-rapporte-un-nombre-record-de-nouveaux-cas-en-une-seule-journée?fbclid=IwAR3dUFofU-jaTJvctNHjYXaNIJqMTHn5U31VRlQhr64I2GvFePd2y6LlB-c&ref=fb

PS:ラウト処方箋に3月と5月の報道に差異があるが、クロロキンとヒドロキシクロロキンの違いからくる薬の組み合わせや容量の違いだろうと思う。したがって両方とも利用されていると考えられる。(S.H.)