服喪明けの7月18日、ニースに集まる数千人の人々
セキュリティの穴、パリ祭の夜
7月14日23時少し前、ニースの海岸沿いのプロムナード・デ・ザングレに忽然と現れた19トントラックが暴走。恒例のキャトルズ・ジュイエの花火を見終わったばかりの人たちを2kmにわたって撥ね飛ばし、死者84人負傷者202人うち50人以上が命にかかわる重症を負う大きな犠牲を出した。
まるでボーリングのピンのように撥ね飛ばされていく人々を見たという多くの目撃者たち。爆弾だという叫びや、逃げろ、という叫び声に駆られた人々はパニック状態となり一刻も早くプロムナード・デ・ザングレから離れるべく走り出し、近くのホテルやレストランへ避難をした。
トラックはプロムナードの途中で止まり、一人で運転していた犯人は取り囲んだ警察に射殺された。
オランド大統領とヴァルス首相、内務大臣防衛大臣は直ちに会合を開いて、15日明け方3時ごろ大統領がTVコミュニケを出した。「7月26日に解かれる予定であった緊急事態を3か月延長する」とオランド大統領。ついで、シリアへの爆撃を強化する、と述べたという(フランス2TV)。
どうして歩行者天国へトラックが入れたのだろうか。警備の手が薄すぎたのではないか?とは、フランス中が問いかける疑問である。
ニースのキャトルズ・ジュイエの夜の花火には、3万8千人が集まったといわれる。警備に当たったのは、ニース警察が48人、国家警察が64人のみ。サンチネル(緊急事態下の軍隊出動)の枠で出動していた兵隊20人。
元ニース市長のクリスチアン・エストロズィは、「すでに政府に警備陣を増やすように依頼していたにもかかわらず、政府は何もしなかった」と政府へ矛先を向けたが、現実に、フランス中の町という町がキャトルズ・ジュイエの人民による解放記念日の花火を楽しむこの日、警備はいくらあっても足りないことは明白で、ニースだけに警察を増やすことはまず不可能に近い。
この数日前に終了したサッカーのヨーロッパ選手権の際には大量の警備隊が出動したが、この夜はまったく不在に近かった。ニースのプロムナードへの道には進入禁止と書いたプラスチックの三角錐が置かれていただけ。プロムナードの車の進入を阻止する鉄のバリケードを、トラックはやすやすと避けた。
安全対策に穴があるという指摘が右派やサルコジ元大統領からも寄せられたが、ヴァルス首相は、「この数ヶ月の間の緊急事態下で、特別警察がテロを15回未然に防いでいる」と表明。「なかには、大量殺人を起こす重大な危険性を孕んだものもあった」とし、政府のテロ対策がしっかり施されていることに言及した。
ISISとの関係見当たらず、犯人の周辺捜査が続く
すわ、テロか!
今のフランスでテロといえば、戦争の相手であるイスラム国によるテロを指しているといって間違いはない。事件から数時間後の政府の対応も、事件の性質と重大さから、これまでのテロと同じラインにあるもとの即断したらしく、「シリアの爆撃強化」が大統領発言に飛び出した。(実際、18日にシリア爆撃が行われた模様である。フランス2TV)
しかし本当にイスラム国のテロだったのか。
射殺された犯人のトラックからは、7.65mmの拳銃一丁(本物)とプラスチックの拳銃(偽物)二丁、武器らしきものが二つ(これもプラスチック)、爆発しないようにされた手榴弾が発見された。ほかにケイタイとPC。テロリストにしてはあまりに貧相な武器。犯人はチュニジア生まれの31才の男で、離婚した妻と子供がいる。暴力をふるって警察沙汰になり、執行猶予付きの6ヶ月禁固刑で監視の最中だった。犯人の周辺調査が進むが、ISISとのつながりを示唆するものはまったくでてこない。祖国にいる父親は、「目の前にあるものには当り散らし、物を壊し、人のいうことは聞かず、医者は精神を病んでいるから薬が必要だといっていた。宗教なんてとんでもない。まったく興味を示したことすらない」とインタビューに答えている。PCやケイタイから見つかったビデオやサイトは首を切り落とす場面や拷問のようすを収めたもの、そして犯人のバイセクシュアルな側面だった。
ISISの犯行声明が16日の朝にフランスに届いた。通常のISISであれば、犯行声明は犯行直後と決まっているのに、内容はあいまいで主謀者が分からず、当局はこの犯行声明には半信半疑だ。
ル・モンド・ダラブの地政学者は、「この犯行は、まったくISISやイスラム国の犯行のロジックそのものです。やり口はそうだが、彼らがやったものではないでしょう。犯人は、精神を病み犯罪を犯して警察に追われているマイナーな人間です。世の中のただの嫌われ者でいるよりは、大きな事件を起こせば、それだけで大型組織がやっているようなテロに自己同定ができるし、同時に自分の悪を正当化できる。そう考えたに違いありません」という。大量殺人を起こせば、戦争のように正当化される。また、そのほうが自分を納得させられるということだろう。
地政学者は続けて、「イスラム国は石油ラインを絶たれたりして、徐々に弱まっています。フランスはここで戦争を止めるわけにはいかないでしょう。イスラム国は必ず崩壊する。ただ崩壊したときに、集まっていたものがばらばらになって単独行動をし始めるとニースで起きたような事件があちこちで起きる可能性が高まる。これが怖いですね」。
周到な計画
犯人Mohamed Lahouaiej Bouhlelは、7月4日にトラックをレンタカー会社に予約。7月8日、銀行口座を空にした。7月11日トラックを取りに行く。7月12日、自分の車を売却。7月13日、トラックでプロムナード・デ・ザングレを走って下見をしたところを道路に設置された監視カメラが捉えている。
犯行の10日前から周到に準備されたテロ。現在もケイタイなどのコンタクトから6人が拘束され尋問を受け続けている。
犠牲者
旅行者の多いこの時期、アメリカ人、ドイツ人、チュニジア人などが犠牲となった。84人の死者のうち、身元が判明していない人がいまだに16人。また行方不明になった近親者を捜し歩く人々がいる。「死んだ人の身元と合わせるために DNA鑑定用のものを医者に渡しました。怪我人が収容されている病院は全部回りました。それでも見つからないんです」と、痛ましい。いまだに70人が入院中で、そのうち19人は危篤状態が続いている。
道路のあちこちに山積みされていた花束や縫いぐるみを人の鎖がプロムナードから取り除き、7月19日、プロムナード・デ・ザングレが全面開通した。
(フランス2TV、Nice Matin、ル・モンド、itele、その他)