労働法案に反対する肉弾戦
2016年3月、ミリアム・エルコムリ労働大臣(38)が労働基準法改革案「エルコムリ法」を発表してから2ヶ月。4月7日付の拙ブログでも紹介したが 、新法案は、解雇がしやすくなり、残業や休日労働の報酬が一律大幅減少するなど、雇用者に有利な雇用関係を推しだす一方で労働者の権利が著しく損なわれる恐れがあると評価する学生や市民が増加、労働法改革案反対集会「Nuit debout」が全国各地で行なわれるようになった。当局は、集会施設やテントの撤去、座り込む市民の強制撤去を強行しており、その際の警察による暴力が取りざたされている。
・ミリアム・エルコムリ https://fr.wikipedia.org/wiki/Myriam_El_Khomri
2016年4月28日、パリ、レンヌ、マルセイユ、トゥールーズ、ボルドーでデモと警察が衝突。パリではデモの中に「壊し屋」と呼ばれる若者たちが混じり、消火器を警察に投げつけたり公共物を破壊するなどして、警察官3人が負傷。壊し屋と見られる青少年120人が捕縛された。ナントで19人が拘束。レンヌで18人拘束。同じくレンヌでは20歳の学生が警察が撃ったフラッシュボール(小銃で撃つ5センチほどの硬いプラスチックのボール)が目に当たり、左目を失明する事故が起きた。学生集会のまとめ役UNEFは、「学生集会に対して、出動する警察は(装備が)大げさすぎる」と指摘。この日の動員数は全国で5万人といわれる。
[4月28日のようす]
重装備をした警察が、レピュブリック広場のテントと市民を無理やり撤去する風景。引きずり出し殴る蹴る、警棒で叩く、が目に余る。
[4月29日のようす]
全国で214人が捕縛された。78人の警察官が負傷。(負傷した市民の数も多いはずだが、公表されない。)
[怪我をした警察官]
警察官が敷石や催涙ガス、爆発物や火炎瓶などを投げつけられ、負傷者が続出しているのも事実。警察側は、「これほど警察が標的になったことはない」。
[壊し屋とは?]
壊し屋たちは、Nuit Deboutに集まる労働法案反対の若者たちとは異なる「警察は嫌いだ」というスローガンを叫んでいる。今回利用された手製爆弾は威力は小さいものの、器物の破壊力や殺傷力がある。ドイツ語やロシア語が飛び交い、外国人が多い。計画的な行動をするのではなく、アナーキーな集団だ。
[4月30日]
拘束された18人のうち14人が裁判所に出頭。28日にレンヌで片目を失った学生の事故について、警察内警察が調査に乗り出し、フラッシュボールによる不祥事として書類送検した。
30日のレピュブリック広場の強制撤去のようす(激烈):http://www.dailymotion.com/video/x47o7k2_evacuation-musclee-de-nuit-debout-place-de-la-republique-a-paris_news
[5月1日、勤労感謝の日の集会]
28日から30日までの警察や憲兵の実力行使による牽制で、集会動員数はかなり減った模様。
マルセイユ、レンヌ、ナント、パリで、メイデイはすっかり新労働法案反対集会に様変わりした。練り歩く市民に混じり、壊し屋が通りすがりにバス停を壊したりショーウインドウを割るなど、またパリのナシオン広場で警察に催涙ガスを投げるなどして衝突があり壊し屋100人が捕縛された。ほかの都市では比較的平和な集会が行われている。デモ参加のお年寄りは、「この法案は、後退もはなはだしい。この200年で獲得してきたものをすべて失うようなほんとに酷いものだ」。全国で集会に集まった人たちの総数は9万4千人。
「こういった暴力で怪我人が出たり器物が破損されたりするのはほんとに残念。暴力がひどい分だけ話題がそちらにずれて、私たちがどうしてここに集まっているか本質的な問題がないがしろにされてしまう。集会が終わると被害しか話題にならない」とデモの女性。
エルコムリ法案は採決されるのか?
この二ヶ月で、負傷した警察官300人、捕縛された反対派あるいは壊し屋は1000人という(BFMTV:ニュース専門局)。
政府に寄せられた法案に対する改正案は5000通。政府は採択する前にこの5000通の改正案を検討しなければならない。
74%の一般市民はエルコムリ法案に反対。そのほか組合、使用者層、学生、Nuit deboutが反対を推進をしている。一方で、エルコムリ法案を支持する大統領と政府は本来、国民議会で過半数を占めているのであるが、今回の法案には反対者がでており、可決に必要な過半数に40票足りないことが明らかになっている。票を取り戻すには、「少なくとも使用者層に不利な5つのポイントを協議しなおさなければならないのではないか」と社会党議員。5月4日、オランド大統領ならびにエルコムリ労働相は、市民の反対にもかかわらず新労働法案には確信を示しており、取り下げる気配はさらさらない。
そこで危惧されるのが、49.3法の適用だ。49.3法とは、採決をせずに首相の権限で法案を通してしまうことのできる法律である。はたして政府は49.3法を適用するのか。
これから二週間かけて、寄せられた5000の改正案の審議が行われる。
(フランス2TV、BFMTV)