メセナ、昔と今
メセナはフランス語でmécénatと書く。発注や個人への資金援助をして芸術や文学を振興することを指していい、メセナを行う人間や団体を「メセヌ(フランス語:mécène)」という。歴史を遡ると、アンリ4世が芸術や文化を擁護し、「メセナをした」という記述があるのが知られているらしく、よく引用されているのを見かけるが、現代では、1980年代初頭にフランス国家が積極的に芸術振興をする政策をとり、生きた芸術家にさまざまな支援を施すことを「国のメセナ」と呼んだのが記憶に新しい。 語源は、古代ローマ時代に活躍した詩人であり政治家であったガイウス・キルニウス・マエケナス(ラテン語: Gaius Cilnius Maecenas、 紀元前70年4月13日[1] – 紀元前8年10月)からきており、その名前Maecenasのフランス語への点訳がmécèneであることに由来しているという。
芸術省のために (1956年共和国政府覚書から)1
一度、世界のトップに立ち、他の国からモデルとしてあがめられた経験を持つ国は、精神の根底で地球レベルのおおきな夢を意識してやまないでいるように思う。文化において、過去長いあいだ先達であり、それがゆえに大きな歴史を形作ったフランスは、世界の文化を導いた過去の栄光を意識しつつ、廃頽した第二次大戦直後、新らたな時代を強く意識しながら、現代から未来へ向かって思考を始めている。 戦後の現代文化を形成する文化省の誕生に寄与した大本の思想。ここに引くのは、そのなかから1956年12月の共和国政府覚書第4号に掲載されたロベール・ブリシェの文章「芸術省のために」の翻訳である。(翻訳: S.H.) 最近の政府議論で、フランス共和国の体制とフランス国民のプレスティージュのために、芸術に関する問題の重要性が浮き彫りにされた。内閣の大多数が芸術省の設立を望んでいる。はたして、共和国は「メセナ」の役割をしなければならないのだろうか。世間は専門家が必要だというが、われわれに言わせるならば芸術家も同じように必要な存在だ。しかしながら、芸術家は自由であることが身上である。芸術家を助け、彼らを苛立たせずに規律の中に入れることが、メセナの義務というべきだろう。共和国はもう何もしないでいるわけにはいかない。この文章を書く著者、芸術・文学国務官である私は、われわれの文化の退廃を嫌というほど見た。はやく、救済策を講じなければならない段階にきているのである。…