フランスから―環境とアートのブログ

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論争「女性」

2011年の話題の女性第一位 - 2011年12月19日、フランスのTerrafeminaによる今年一番話題になった女性についての世論調査で、ドミニク・ストロス=カンの妻でジャーナリストのアンヌ・サンクレアが選ばれた。第2位は、ドミニク・ストロス=カン退陣後に国際通貨基金のディレクターに就任したクリスチーヌ・ドラギャルド、3位は社会党のマルチーヌ・オブリィ、4位は歌手のノルヴェンヌ・ルロワ、5位はFN国民戦線のマリーヌ・ル・ペンという順位。アンヌ・サンクレアは、夫ドミニク・ストロス=カンの婦女暴行容疑逮捕以来、夫を支え続け、裁判や莫大な保釈金の肩代わりをした。 この世論調査に19日付のヌーベル・オプセルバターで、ヨーロップ・エコロジー・レ・ヴェールEELVの大統領候補エヴァ・ジョリィは、「(アンヌ・サンクレアが一位に選ばれたのは)悲しいですね。国際通貨基金のディレクターや、政治の第一線で活躍する女性や技術者が一位に選ばれるべきではないですか。あまりに前時代的な感じで、がっかりです」と発言した。 ちなみに内訳は、アンヌ・サンクレアに投票した大多数は女性という結果が出ており、2位にマルチーヌ・オーブリィを選んでいる。一方、男性の選択は、国際通貨基金のクリスチーヌ・ドラギャルド、2位に国民戦線のマリーヌ・ル・ペン、3位に社会党のマルチーヌ・オーブリィの順となっている。(ヌーベル・オプセルバター、シュッド・ウエスト紙、フランス2TV、TF1TV、BMFTV) 豊胸手術に発がん物質、国民保険が補償 - 豊胸整形手術のさい胸に埋め込むシリコンに用いられるPIP社製造のシリコンが、実は人体への使用に不適当な産業用シリコンを使ったものであったことが判明し、整形手術を受けた女性の団体が世論へ危険性を訴えていたが、シリコンを包む皮膜が破れるなどの事故が相次ぎ、12人が乳がんを発病して死亡するなどしたため、国は「予防の原理」を適用する方針を決めた。PIP社の シリコンと乳がんとの関係についてはまだ明らかにされてはいないが、 シリコンを取り除く手術を国民保険が支払う。PIP社の製品で整形手術をした女性は3万人にのぼり、そのうち80%は美容のための整形で、のこり20%は乳がん手術後の整形に利用されたと言われている。80%の美容整形者については、 シリコンの摘出にのみ国民保険がきくことになる。 PIP社は年間10万個のジェルを産出する世界三番目の大手会社で、製品のほとんどは海外へ輸出されていた。ジェルを包む皮膜の破裂などの問題が頻発して社員組合が動き出していたが、PIP社の幹部は社員を置き去りにして全員姿をくらましてしまったという。(フランス2TV) My opinion: アンヌ・サンクレアは、ポール・ローゼンベルグという20世紀初頭の大画商の孫に当たる。ポール・ローゼンベルグは、ピカソやマチス、ブラックなどを扱い、カーンワイラーと並ぶ有数の画商だった。アンヌ・サンクレアは遺産の絵画をいくつか引き継ぎ、億万長者というよりもその財産は計算できないくらいに膨大であるらしい。夫ドミニク・ストロス=カンの保釈金やニューヨークのアパート代警備代その他の莫大な出資はみな、アンヌ・サンクレアが引き受けたというはなしだ。婦女暴行容疑と汚名、その後次々と明らかになる夫ドミニク・ストロス=カンの不倫にもかかわらず、公衆の面前では夫を支え続け資金をつぎ込んで惜しまなかった。これを家庭崩壊を避けるために世間の目や夫の行状に耐える「けなげで忍耐強い主婦の鑑」と判断するか、「意志の強い女性」と判断するか。ともあれ世間はいろいろで、「分かれないのが不思議」という人も実はかなり多い。女性の投票が多いのは、どちらかと言うと「よく我慢している」という驚嘆によるものではないだろうか。いっぽうで、男性が国際通貨基金のクリスチーヌ・ドラギャルドを一位に選んでいるところを見ると、男性軍は、この機構の世界初の女性ディレクターをしっかり評価し、選考基準に社会的評価を先行させていることがみてとれる。エヴァ・ジョリィに反論する気は毛頭ないが、内訳をこういうふうに解釈すると、なかなか捨てたものではない。 PIP社の産業用シリコン事件は、がんとの因果関係がはっきりしていないことから国が補償する対象とすべきなのかどうか、世論は疑問視する傾向にある。発がん性の可能性のある産業用のシリコンを体に埋め込んでいる事実を知った女性たちは、身の危険に苛まされていることだろう。それにしても、PIP社の輸出先のシリコンについてはどうなる?(S.H.)

論争、エヴァ・ジョリィ対フランソワ・フィヨン

論争沸騰、軍事パレードから二重国籍へ- 7月14日、キャトルズ・ジュイエ。シャンゼリゼ通りで行われる恒例の軍事パレードについて、EELV(ユーロップ・エコロジー・レ・ヴェール)に選出された大統領候補エヴァ・ジョリィの発言が、論争を巻き起こした。この日エヴァ・ジョリィが、「軍事パレードを廃止して、市民のパレードに切りかえてはどうか」と発言したところ、フランソワ・フィヨン首相がこれを受け、「なんとも悲しい発言だ。この’婦人’はフランスの伝統や、古い文化や価値、またフランスの歴史がまるで分かっておられない」と、メディアに向けて正式発表するかたちをとってやり返した。エヴァ・ジョリィはこれに反駁し、「私はフランスで50年も生活してきたれっきとしたフランス人です。私の愛国心に対し疑いを投げかけるような言い方は許せません」。引き続き『Le Point』誌上で、「こうした(首相の)言い過ぎは、ナショナル・アイデンティティをたてに虚勢を張るところからでている。首相は、ああしたことを言ったことで、公ですべき意見討論の意味を貶めたばかりではなく、共和制政体のあり方そのものが退廃へ向かっていることを露にした」と述べた。 EELVの創始者、ダニエル・カン=ベンディット(欧州議員)は、「エヴァは正しい。フィヨンの脱線だ」。ユーロップ・エコロジー書記長セシル・デュフロは、「こうした発言をする首相は恥だ」。また社会党のフランソワ・オーランドは、「(軍事パレードをうんぬんというのはひとつのアイデアとして出ただけ)出てくるアイデアのもろもろを公の場で検討していくのは当たり前のことなのだが、そうした討論の場すら拒否してしまうような政府は言語道断です。フィヨン発言は許せません」。社会党のマルチーヌ・オーブリィはさらに輪をかけて、「フランスで生まれたフランス人も、フランスの外で生まれたフランス人もフランス人として同等の立場にあります。同等の権利を再び外と内とで引き裂くようなフィヨン首相の発言は、大問題です。フロン・ナショナル(極右政党)と同じラインではないですか。今回、心底からショックを受けました」。 軍事パレードの問題を飛び越え、フィヨン発言は革新左派を逆撫でする結果となり、「ナショナル・アイデンティティ」にかんする保守右派政府と革新左派全体の対立を、再び浮上させることとなった。 (フランス2TV、TF1TV、F2blog、Le Point) 〈注記: キャトルズ・ジュイエの軍事パレードについて - 大本はナポレオン一世時代に始まったもので、そののち1880年から毎年国民の日7月14日に行われるようになったパレード。シャンゼリゼ通りで行われるようになったのは第一次世界大戦後の1919年。現在のパレードは約4000人の軍隊(兵学校、海軍、陸軍など)、および消防、警察などで構成されている。キャトルズ・ジュイエの軍事パレードは、ロシアの赤の広場の軍事パレードに次ぐ大きなパレードといわれている。〉 My opinion: エヴァ・ジョリィの立候補と今回の発言、またフィヨン首相の発言にはさまざまな大問題が含まれている。キャトルズ・ジュイエの軍事パレードについていえば、現在軍事パレードが定期的にこれだけの規模で行われている国はロシア、北朝鮮など、ある種の政治色が濃い国ばかりであること。伝統的かつ著名な風習を廃止するという「ひとつの」提案を無下にし、フランス・ノルウエーの二重国籍を持つエヴァ・ジョリィに対し、「このご婦人はフランスの歴史も価値も知らない」といったフィヨン首相の表現には、エヴァ・ジョリィを外国人とみなしてフランスという国の概念の外へ押し出そうという意味合いがありありとしていたことだった。出るべくして出たこの二重国籍を保持する大統領候補の「出自」の問題。このことで、保守現政府が政府樹立当初、省まで設けた「ナショナル・アイデンティティの概念」を思い起こす国粋主義的な保守の根本志向が再浮上し、従来の保革の思想的対立へ立ち返ることになった。 フランスは植民地が多かった。北アフリカ、仏領インドネシア、ポリネシアなど、旧植民地関係でもフランス国籍を持つ有色人種がたくさんいる。フランス自体、イタリア、スペイン、ロシアなどの少数ながら民族移動と居留が歴史的に頻繁に繰り返されており、国民の混血を免れてはいない。また、サルコジ大統領も父親はハンガリー人でブタペスト生まれ、母親はフランスで生まれているが、家系はユダヤ系ギリシャ人。フランス人のアイデンティティを再考して、フランス人として不釣合いあるいは疑わしい人間の国籍を没収する、などという政策をとるなどしている現政府の「シェフ」ですら、フランス国籍取得は一代前のことでしかない。 こうした国で考えることは、自分のアイデンティティもしかることながら、「人間の権利」とは何かということだ。生まれたときから授けられた権利、剥奪される権利、獲得していく権利。いろいろあるが、現在生活をしている現場の国の人間たちと同じ権利を保障する国籍に関していうならば、日本は本来、二重国籍保持を許してはいない。したがって日本国籍を持つ限りは、日本人が外国で大統領候補になる可能性などは皆無である。したがって、フランスに50年いてもエヴァ・ジョリィにはなれない。すでにその50年あるいは1年ですらも、エヴァ・ジョリィと同じ生き方はできない。国の外で見えてくる人間の「権利の対等」。対等の権利を持つ。人一人の運命にとどまらず国の運命まで変えるキー概念のひとつがここにある。(S.H.)

アクチュアリティ、エヴァ・ジョリィ

政治、話題の人、エヴァ・ジョリィが大統領選出馬- 2012年のフランスの大統領選挙に向けて、ユーロップ・エコロジー・レ・ヴェール(EELV フランスの緑の党の各派閥を統合した呼称)が立候補者をきのう選出。58%の支持を受けたエヴァ・ジョリィ(Eva Joly、67歳。欧州議員)に決定した。エヴァ・ジョリィは、ユーロップ・エコロジーで真っ先に立候補の意思表明をしていたが、公の討論会などで外国人訛が批判されたりもし、世界を探検して回るテレビ番組『Ushuaïa/ ウシュアイア』で有名なニコラ・ユロがかつぎだされて、実質、エヴァ・ジョリとニコラ・ユロの一騎打ちとなっていたもの。 エヴァ・ジョリィは、1943年ノルウエー、オスロ生まれ。20歳のときにフランスにきて結婚の際にフランス国籍を取得した。ノルウエーとフランスの二つの国籍保持者。フランスで政治学を学び、司法官職を経て、38歳のときにフランス共和国検事となる。のち、産業再構成に関する省間委員会 Comité interministériel de restructuration industrielle (CIRI)書記長となった(初のENAを出ていない書記長)。 1990年、パリ最高裁判所の予審判事となり、エルフ事件、フランス国鉄事件、ベルナール・タピ事件、ローラン・デュマなどの事件を担当するなどして機構の悪をついた。その後、仕返しを恐れてノルウエーに戻リ、2002年収賄や違法な金銭のやりとりなどの国際犯罪撲滅を目的にノルウエー政府の顧問となる。2005年、悪徳な国際的犯罪撲滅のためのネットワーク「Le Network」を設立。2008年、ユーロップ・エコロジーに合流。2009年、欧州議員に選ばれた。 http://fr.wikipedia.org/wiki/Eva_Joly エヴァ・ジョリィ、オフィシャルサイト My opinion: 青天の霹靂、とはこのことだ。執拗にに「血統」にこだわってきたフランスが、フランスのDNAを持たない数人の女性閣僚(フランス国籍はもちろん所有)を、共和国政府の歴史上はじめて、フランスの内閣に入れてからまだ4年も経たっていない。2011年の今日、外国生まれの二重国籍保有者が、フランスの政党の大統領候補者として選ばれることになった。エヴァ・ジョリィの専門は司法で、主に収賄や裏金、脱税などの国際犯罪を手がけ、撲滅運動をヨーロッパに広めることにその仕事の核があった。「経済に仕える人間の姿を根本から変えなければならない」という本人の発言の裏には、大企業と政治家の癒着にからむ政治の歪みやそれに伴う国際犯罪、犯罪をみのがす政治、信頼を失った政治が引き起こす社会問題、そして、もろもろのしわ寄せを食らうわれわれ庶民のすがたが強く暗示されている。エコロジーとエコノミーは表裏一体。CO²が金に換算される社会の未来には、うってつけの人なのかもしれない。有名人のニコラ・ユロと、堅実なエヴァ・ジョリィ。花より実を取ったユーロップ・エコロジーだ。(S.H)