更新:2013年6月24日:
Time Lapse :

水を55トン使うインスタレーションの代わりに構想した「忘れられた曼荼羅」は、その図面を描き起こすだけで1カ月半がかかった。

こういう地方主催の展覧会のバジェットは、そう大きいわけでもなく、通常アーティストはプロジェクト構想と同時に、与えられたバジェットの中ですべてを賄うように見積もり計算をする。つまり、アーティストが費やすエネルギーの半分以上は、プロジェクトをバジェットの中に押し込めるための努力だといっていいかもしれない。現場の環境に見合うインスタレーションの大きさを割り出すが、大概、果たして与えられた資金でその大きさのものが作れるかどうかをはじき出すのがいつものことになっている。作品の実現や見積もりには、実はいろいろな要素が反映する。私の作品は、県内部の木工所が作ってくれるように、文化局が木工所とと掛け合うことになった。いい加減な図面では、木工所にはじき返されてしまう。木工所は少人数で県の中のすべての木工作業を引き受けているため、時間をとってやってくれるかどうかは、このプロジェクト図面が彼らの興味をしっかり引くものになるかどうかにかかっているわけだ。ミリメートル単位で隅々図面を引くために、フォトショップで仕事を始めたが、分かってもらえるような図面になるまでに約1カ月半かかり、内容は総計35ページにわたるものになった。

図面をメールで送った後、2012年12月9日、ルーアンの県庁での会合に出向く。木工所のチーフとそのチーム、県庁の文化局が集まり、図面を前に、木工所が仕事をすることを承諾。それでも木工所の上の人間が、「オートカッドでないと、やはり…」という。確かに私もフォトショップではどうしても誤差が出てしまい、隋分苦労をした。苦労をしたから建築家が使うオートカッドであればと思っていたが、専門家のソフトは専門家に習いに行かないとそうやすやすと使いこなせるものではない。フォトショップの弱点を知ったとき、早々に建築家のイギリス人フィリップに頼み込み、実はオートカッドを習い始めたところだった。「これから何とか数週間で図面を引けるようになりますので」。

そうこうしているうちに正月。オートカッドの練習も3回目でようやく図面を引き終え、また木工所へ送付したところ、チーフのジョエルが電話口から、「もう材料は計算して発注しましたよ。オートカッドでなくても最初の図面で十分でした」という返事が返ってきた。

こうして「忘れられた曼荼羅」の制作が始まった。木工は、県立木工所の副主任と専任の二人が進んで引き受け、2月のジュミエージュの露天の寒さのなかで行われた。ルーアンからほとんど毎日通い、一ヶ月余りをかけて各部品を作り上げたという。

ビデオのTime Lapseは4月上旬、出来上がった部品を組み立てるときに撮ったものである。(S.H.)

 

Mandala oublié Photo:S.H.