Jean-Luc Bichaud ジャン=リュック・ビショー.
1960年パリ生まれのフランス人。現在イル・ド・フランスのサン・ドニ在住。
1990年代から「接木」をテーマにその造形世界を展開し、性質が違いすぎて合いそうもないエレメントを継ぎ合わてある種のハイブリッドを作り出し、現実世界へ投げ出すことによって詩的世界を創造しはじめた。例えば、植木に鉛筆を接ぎ当てたり、金魚が空を飛んでいたり、サボテンが水の中にあったり。分析されて思索され慎重に選ばれたエレメントたちが接木され、そうして短絡したハイブリッドたちが、直感的な「おかしみ」を生み出す。知性的でありながら、暖かいユーモアを感じる作品群だ。…
(作品「オーギュスト・ルノワール 1996 バラの木「オーギュスト・ルノワール」に色鉛筆の接木をしたもの。接木用の茶色いセメント)
(作品、アレンジメントNo13、シャ・ペルシェ 2002)
(作品:水車に水を 2009、歴史建造物指定の水車、川。家庭用のスポンジ約700個)
(作品:占領 2011 ヴァンセンヌ城 企画個展)
木、鳥、花、水、魚など、自然のものを扱いながら、シチュエーションの設定や複数のエレメントのフュージョンによって、「反」自然的なものをつくりだす独特の「短絡」が興味深い彼の作品は、2011年のヴァンセンヌ城の個展ではもう一つ異なった展開を見せた。動物や自然、人間と自然の関係を掘り起こす方向で現代アートの企画を行う狩猟博物館主催による個展だが、彼は、プラスチック製の鳥を数千、軍隊のように並ばせ、「占領」とタイトル。カーキ色の同じ形をした鳥のインスタレーションは、人間の目には造反する自然がただのプラスチックのかたまりにしか見えないといった、自然と人間の背反をさらに強調する世界を作り出してみせた。
2012年、ジャン=リュック・ビショーは、フランスの環境アート展で「嫌われ者たちのノアの箱舟」を制作した。殺虫剤や狩猟で殺されていく害虫や害獣を救うという発想は、そのまま、自分の都合のいいように生態系を破壊し続ける人間の活動のゆがみに一石を投じる作家の姿を映し出すものだ。嫌われ者を救う彼のノアの箱舟は、地球の生態系を救う箱舟の一つとなるに違いない。