文化省の造形芸術庁は、アーティストの活動サーキットを多様化することにも尽力した。

もちろん画廊システムが存在し、あちこち公の展示場もあり、アーティストが発表活動ができなかったわけではない。しかし、画廊はマーケット中心に動いているから、作品の選択も新しいアーティストの採用も、利益優先で行うのが常である。 したがって、ほんとうは多様なはずのアートはいってみれば経済にふるいにかけられて極限され、一般の目に触れるアートは流行一辺倒に陥りがちだった。この意味で、マーケットも負けずに閉鎖的である。
そうした商業中心の芸術市場の間口の狭さに注目した文化省は、まったくマーケット基準から離れ、新しく生まれるアートがそれなりに形になり、きちんと人の目に触れられる活動の現場をつくることに力を入れ始めた。新しい世代のアーティストの育成を目指して、文化省がもうひとつの活動様式を提供したといえるだろう。

地方には80年代、すでにいくつか大きなセンターが現代アートの活動をそれなりに行っていたが、文化省が声をかけて彼らの活動に援助金を回すしくみを敷設した。もとは地域のバックアップのものもあり、また町のものもあり、アソシエーションのものもあったが、ほとんどがしっかりした規模の活動をすぐさま発展させられるような施設の整った現代アートセンターが選ばれ、「文化省つきの現代アートセンター」という総称をもってネットワークを形成したのが80年代後半の話である。これらの現代アートセンターで受け入れるアーティストは、マーケットの外で自由に創造活動するアーティストでなければならず、そのアートはそこで今新しく生まれるアートでなければならなかった。

ばらばらだった現代アートの現場は、こうしてまとめられていき、そのことによって現代アートセンター自身も使命感を増幅していった。文化省つき現代アートセンターの連携は90年代にはりるとまたたくまに、ドイツやイタリアの現代アートセンターまでのび、ヨーロッパのアーティストの巡回やイクスチェンジの場ともなり、ようするにフランスの現代アーティストをヨーロッパに送りだす窓口の役割を担うまでになったわけである。(S.H.)

CNAP-国立造形芸術センター登録、全国87箇所の現代アートセンター、住所録ページ
Annuaire de 87 centres d’art contemporain en France (CNAP)