毒剤テロと外交官追放

イギリス在住のロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパル(66)とその娘ユリア(33)が、神経性毒剤を盛られて意識不明で発見された。ロシアによる犯罪と判断したテリーズ・メイ英国首相は3月15日、在英ロシア外交官23人を10日以内に国外追放すると発表。イギリスが23人ものロシア外交官を追放するのは冷戦終結以来前例がなく、二国間外交の凍結に等しい。ボリス・ジョンソン外相は、「非難はロシアに対してではなく、プーチン大統領に対するものである」と強調している。

イギリスでは近年、不可思議なロシア人の死亡事件が続いていた。

ロンドン南西部の町ニュー・マルデンで、ロシア人ビジネスマン、ニコライ・グルシコフ(68歳)が絞殺され自宅で死体で発見された。グルシコフはロシア航空アエロフロート社の元副社長で、1999年から5年間資金洗浄と詐欺の罪で投獄されていた。2006年に別の詐欺行為で執行猶予判決を受けた後、2010年に英国で政治亡命者として庇護を受け、ロシアのプーチン大統領を批判する側に回った。グルシコフの近い友人だった広告会社のベル氏は、グルシコフが反ロシア的行動に出るのではないかとロシアが疑っているに違いないと心配していたという。アンバー・ラッド長官が英国内の一連の殺人はロシアが関与しているとして​警察とMI5が捜査を開始したと公表した同じ週に、グルシコフは殺された。1999年に英国にやって来たロシア人ビジネスマンボリス・ベレゾフスキーとグルシコフは緊密な友人関係にあったが、このベレゾフスキーは2013年、バークシャーの家のバスルームで首を吊っているのを発見されている。

そうして今回、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパルとその娘ユリアが、サリスベリィのレストランを出た後ベンチの上で意識を失った状態で発見された。駆けつけた警官一人も毒剤により重傷を負った。英国政府は、二人はノヴィチョク(Novichok)と呼ばれるロシアが開発した軍用の神経性毒剤で中毒したものと判定。テリーズ・メイ首相は議会で、「モスクワの仕業と確信している」と述べ、また、ボリス・ジョンソン外相は、プーチン大統領自身が神経毒剤による攻撃を命じた可能性が圧倒的に高いと付け加えた。

訪英中のポーランド外相がボリス・ジョンソン外相に、イギリスはプーチンの標的になっていると切り出し、「(ロシアが)第二次世界大戦以来初めてあろうことかヨーロッパやのイギリスの街中で神経性毒剤の使用を指示した可能性が非常に高い」と伝えている。イギリス国内でロシア人が14人殺害されたという証拠を持つと主張するBuzzFeed News (BuzzFeed News claimed to have evidence)は、殺人はロシアかロシアマフィアの仕業だとしているが、この段階で警察はまだいずれの事件も犯罪の確証をつかんでいない。

モスクワは神経性毒剤ノヴィチョクで殺人未遂を犯したことを否定している。しかし、オランダ、ハーグの化学兵器禁止機関などによると、この毒剤はソ連時代に軍事開発したもので、その発明者は現在アメリカ在住だが、ロシアだけが生成可能なものなのだ。

 

モスクワ報復、在露イギリス外交官23人を国外追放、英国大使館を閉鎖へ

イギリス政府のロシア外交官追放処置に対してロシアは、「神経性毒剤などもロシアは作っていないし、ロシアは一切関係していない」と反駁。3月17日、ロシア外相はイギリス大使ローリー・ブリストウを召喚し、7日間を猶予にイギリス大使館の外交官23人を国外追放する旨を通告し、英国大使館を閉鎖する意向を示した。イギリス領事館の失意に反し、ロシアはサント・ペテルスブルグのイギリス領事館の業務についても、またイギリス政府による文化教育活動なども無期限で停止する意向だ。ロシアはまた英国に、「ロシアへさらに非友好的な措置が取られれば、ロシアは次の措置をとる用意がある」と警告した。

このイギリスとロシアの確執は今に始まったことではない。モスクワとロンドンは2007年、ロシアの元スパイ、アレグザンドル・リトヴィネンコが死亡した際、モスクワの英国領事館のみを残して地方の英国領事館を全て閉鎖したという過去がある。

 

アメリカから60人、カナダやEU諸国14カ国もロシア外交官を追放

3月26日、それまでロシアに何の制裁も加えなかったアメリカが、イギリスに呼応して国内の60人のロシア「スパイ」を国外追放すると発表した。同時にカナダ、EU加盟国のうち14カ国が自国からロシア外交官の追放を報じた。フランスから4人、ドイツ3人、リチュアニア3人、イタリア2人などなど、合計108人のロシア人追放というロシアへ史上初の強硬手段が取られることになった。

アメリカのジャーナリストたちは2月、トランプ政府がロシア対策に1ドルたりと費用を投じていないことをスクープし、ロシアへの大統領の及び腰を非難した。それに上塗りするように、3月18日プーチンが4回目の大統領当選を果たし、トランプが祝福の電話を入れたことで、トランプとプーチン癒着がまた騒がれた。しかも、米外交戦略顧問が、プーチン氏へ当選祝いをしないようにトランプ大統領に忠告していたことがリークして明るみに出るという不祥事が起き、ホワイトハウスが再び混乱した矢先のことである。

一方で、アメリカ国内で起きた数年にわたるロシアのハッキングで、市民のライフラインのインフラである水道、電気、原発、交通網、航空など、大規模レベルのコントロールが危険にさらされていたことが判明した。この度の世界的に禁止されている化学薬品を利用したイギリスの事件を機に、アメリカ政府は60人というロシア「スパイ」の大量放擲を決めた。近郊に原子力潜水艦の基地やボーイングの格納庫のあるシアトルのロシア領事館も閉鎖する。

 

ロシア、アメリカ人外交官を60人国外へ

3月29日、ロシア外相セルゲイ・ラヴロフは、アメリカが追放するロシア人と同じ数のアメリカ人外交官60人をロシアから追放し、サント・ペテルスブルグの領事館を閉鎖すると発表し、同日、アメリカ大使を外務省へ呼んで通告した。アメリカ外交官らは、4月5日までにロシアを出なければならない。

3月29日、アメリカのNBCニュースは、ロシアの二重スパイ、ボリス・カルピチコフが同TVジャーナリストに、「スクルペルは殺人リストに載っている8人のうちの一人だった」と証言したのを伝えている。リストには、当のボリス・カルピチコフも含まれるほか、トランプキャンペーン中トランプがロシアと結託していた事実をまとめた報告書を作ったイギリスのスパイ、クリストファー・スティールも名を連ねているという。

同盟国とロシアの外交官追放のきわどいシーソー・ゲームが進む今日、再び冷戦時代への突入が懸念されている。

 

France 24: le 15 mars 2018

16 March 2018

Ex-espion empoisonné - La Russie va expulser 23 diplomates britanniques en représailles

ロシア外相セルゲイ・ラヴロフ

 

https://www.rtbf.be/info/monde/detail_ex-espion-empoisonne-la-russie-va-expulser-23-diplomates-britanniques-en-represailles?id=9869245&utm_source=rtbfinfo&utm_campaign=social_share&utm_medium=fb_share

http://www.bbc.com/news/uk-43433552?SThisFB

http://www.lemonde.fr/international/article/2018/03/29/moscou-expulse-60-diplomates-americains-et-ferme-le-consulat-des-etats-unis-a-st-petersbourg_5278299_3210.html

My opinion: イギリスのスパイ殺人事件で浮上したヒット・リスト(殺人リスト)にスティールの名があるという。イギリスの殺人事件の裏に見え隠れし始めたトランプのロシア結託の糸はどこまで繋がっているのだろうか。資金洗浄、脱税、ケンブリッジ・アナリティカ、スティールなどなどその捜査範囲の膨大さに驚くミュラー捜査がどこまで進むか気にかかるところだ。ともあれ、世界は一寸先も見通しが効かない。