声を上げる子供達、と、政治を取り巻くロビー
フロリダの高校で17人が死亡し14人が負傷した銃撃事件が起きた 2月14日以来、銃規制論争が全国規模で続いているアメリカだが、野放しの銃砲所持と販売の裏に蔓延する全国ライフル協会(National Rifle Association, NRA)とNRAから献金を受ける政治家たちとの癒着がクローズ・アップされている。フロリダの共和党議員と犠牲者の親や被害にあった子供達の対話、NRA広報担当者の発言や、NRA会長の演説の24時間後の2月24日、今度は私企業のデルタ航空がこれまで行ってきた優待ディスカウントなどの対象からNRA会員を外す意向をNRAに申し入れ、同協会から距離を置くことを表明した(CNN)。
全米ライフル協会(以下NRA)は、アメリカの政治に巨大な影響をもたらし続けており、過去20年間、連邦議会議員や候補者に多大な献金をしてきた。NRAは2017年、憲法第2条(武器を保持する公民的権利)を推進するために500万ドルを費やすロビー活動をしたが、NRAの、ことに当たっての実際の出資力は無制限に近く、2016年大統領選挙と議会選挙の際には、5400万ドルを費やし、そのうち2000万ドルは民主党候補ヒラリー・クリントン攻撃に、また1100万ドル以上を共和党候補ドナルド・トランプを支援するために供出している。また過去、2008年と2012年の大統領選挙では、バラク・オバマに反発するため1800万ドル、共和党候補のマッケインとロムニィへの支援活動には1000万ドルを費やした。
NRAの広報担当者は、「銃所有を認める憲法上の権利を守るために、同グループはアメリカ全土の500万人の会員を代表して選挙に資金を出している」と語ったが、実際過去15年間で、プロガン・グループは大統領候補や議会候補を支持しあるいは反対するために、1億3200万ドル以上を費やしている。(ABC ニュース)
NRAは議員への資金供出ランク表を作成しており、ほとんどの共和党議員が最上(政治資金供出)ランクのA、A+をつけている。一方で、銃所持を厳しく規制することへ積極的に取り組もうとするほとんどの民主党議員が「F」(支援ゼロ)であることに注目すれば、これまでの大統領選で、共和党を支援し、民主党を攻撃してきたNRAの姿勢がはっきり浮き彫りになる。
バックグラウンド・チェック
フロリダの共和党議員マーク・ルビオが高校の銃撃事件直後、「銃の話をするのは早すぎる」と発言したり、トランプ大統領が演説で一切「銃」という言葉を発音しなかったことがジャーナリストたち(アメリカのジャーナリズムのみならずBBCも)にマークされたりしたのも、こうしたNRAのロビー活動が地盤にあることを示唆するものだった。(共和党議員マーク・ルビオは、CNN企画の討論会で事件にあった子供たちにNRAからの政治資金について迫られ、「銃所持を決めるバックグラウンドを再考しなければならない」と言い直している。)
2017年2月28日、トランプ大統領は、「精神疾患者も銃を自由に購入できる」、とういう法案(オバマ大統領時代に禁止したものを解禁するもの)に署名をした。
[ The National Rifle Association “applauded” Trump’s action. Chris Cox, NRA-ILA executive director, said the move “marks a new era for law-abiding gun owners, as we now have a president who respects and supports our arms.”] (NBC2017年2月28日付電子版から抜粋)
犯人のクルーズは精神状態を病んでいたというのが専らだが、銃を購買するためのバックグラウンド・チェックはアメリカの場合、州によっても異なるようだ。高校を襲撃した犯人は銃器を7丁も持っていた。拳銃だけではなく、戦場で用いるAR-15 と呼ばれる機関銃(セミ・オートマティック、アサルト・ライフル。弾が破裂するため破壊力が大きいことで知られる)を襲撃に利用した。なぜ戦場で使われるアサルト・ライフルが果物でも買うように簡単に入手できるのか。銃を持つ側のバックグラウンドのみならず、出回る銃の種類のチェックの緩さに驚きを隠せない。
銃規制を求めて集会を開く子供達へ、ハラスメント増大
友人が殺され教師が殺され、死ぬか生きるかの恐怖を味わった子供達。自分の学校で起きた銃撃事件が火をつけた学校の安全と銃所持規制を叫ぶ子供達の大々的集会を、真っ先にTV上で揶揄したのは共和党元連邦議員のジャック・キングストンだった。「先頭で子供の集団を動かしているのは金で雇われた役者かなにかで、銃砲所持に反対する民主党が陰で操っているに違いない」。災難にあった子供たちのインタビューで現場の恐怖を聞いたばかりのCNNのジャーナリストはキングストンに面と向かって真剣な反駁をしてやまなかった。が、その後も子供たちの集会を率いたリーダーの一人ディヴィッド・ホッグ(同高校生徒、17歳)らはネット上で、銃規制派のでっち上げ、雇われ役者などといったデマによるハラスメントを受け続けている。「本当にひどい話で吐き気がするが、発言を聞いてもらわないと。ツイッターのフォロワーが50万人も増えたのはハラスメントのおかげ。Thank you!」、と皮肉るホッグ。
「教師に拳銃を持たせる」トランプ発言
それこそ、思いつき発言が止まらないアメリカのトランプ大統領。教員に銃を持たせて対応させればいち早く解決できる、というトランプの発言から1時間も経たぬうちに、同校の教員が「問題を解決させるどころか混乱させるばかり」と反対の声をあげた。トランプの発想のように教師の20%に銃を持たせると、武装教員の数は今のアメリカの軍人の数を超えることになるそうだ。大統領は、それだけの数に銃を持たせて訓練をさせる(弾を使う)と、NRAが儲かる、という方向を見ているだけ、と言えなくもない。
NRAの広報担当者はTV討論で、「メディアは銃撃事件が大好き」発言をし、物議を醸し出している。銃撃事件だけではなく、大衆はTVゲームで撃ち合いを見るのが好きだ、とトランプ大統領も言った。ゲームやドラマの作られた銃撃場面と、教育の場に突然機関銃を持った男が現れ友達や先生を殺していった事件の報道とが、混同されることが異常であると、アメリカのメディアは反駁してやまない。昨年のテキサスの襲撃事件の際の世論調査で、銃規制へ踏み込むべきとした50%の世論が今回、70%を超える勢いとなった。「子供が国を変える」アメリカだ。
ロビー活動に拠って成立してしまう国の政策が国民の命の引き換えとなるのは、アメリカに限らず起こることを覚えておこう。(S.H.)
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References:
Marjory Stoneman Douglas High School
https://ja.wikipedia.org/wiki/全米ライフル協会
http://abcnews.go.com/Politics/lawmakers-nra-money/story?id=53230001