不平
ここ10年ばかり、デスクワークが急激に増えた。毎日の仕事のゆうに70%はPC相手である。このあいだ、ピヨートル・コワルスキーの協力者だった建築家のフィリップ・メラー=リベットがアトリエに来て、同じようなことをいって嘆いていた。彼の場合建築事務所を抱えていたから、今進めている建築設計のほかに、将来の仕事を獲得するために毎日コンペを探し出し新しい応募書類をやはり毎日作って送っていたそうだ。 私の仕事は建築家ほど責任が重くはないにしても、あれやこれや手続き書類をひっきりなしに作る。 企画のたびにだいたいプロジェクトは新しい。したがってプロジェクトにみあった業者探しは、ほとんどまったくのゼロからの出発で実はそう生やさしいものではない。業者が何とか見つかるとバジェットに対応するために図面を引いて見積もりを取り、プロジェクトの予算調整をしながら金額を企画者へ提示するという行程がならわしのようになってしまった。業者探しはネット検索で、また、提出プロジェクトも見積もり図面もPCで取りまとめるし、ビデオ・モンタージュや写真のりタッチもPCがたよりなのはいうまでもない。 このあたりまでは、アーティストはどこも同じような状況なのだろうとおもうが、フィリップが言うのは、それ以上になにやら事務的な手続きが目にみえて増えたことだ。たとえば、税務署に行って職業証明を取り、誓約書を4、5種類つくってサインし、CVやプロジェクト・プレゼンテーションにつける義務があったりする。これは建築家には当たり前の書類だけれど、最近はアーティストもコンペなどの機会には同じものが要求されるようになってきた。書類作りはフランスの場合、代理人がするわけにはいかない。殊に税務関係は。郵便局ですらフランスは、局留めの荷物は、荷物を受け取るべき本人の身分証明書と荷物を取りに行くように委託しましたというサインを持って行ってようやくほかの人間が荷物を受け取ることができる。 仕事の周辺の書類作りもやはりゼロから十までやらなければならず、そんなこんなで一日中コンピュータの前に座っていることが多くなった。 ほかにも私のような人間がいるかどうかわからないが、PCの電源を切って立ち上がり、アトリエの扉を開けたときに見える空や木々や風景がなんと豊富で素晴らしいことか。 視覚が満たされるこの瞬間にひどく喜びを感じる今日この頃である。(S.H.)