3月22日と29日に行われたフランス全国地方統一選挙(県)の結果、与党オーランド政権の中枢をなす社会党が大敗した。結果は予想通りの社会党の大敗だが、今回はいつもブログの最後に書くマイ・オピニオンからはじめようと思う。
My opinion: というのも、22日の第一回目の投票で国民の24%の支持率を得て大きく飛躍したはずの極右政党フロン・ナショナルが、29日の決選投票の結果、一県も政権を握ることができないで終わったからだ。とりあえず最右翼をシャットアウトしたフランスの選挙制度に言及したい。フランスの地方選挙では、50%以上(過半数)の票を獲得しなければ当選しないという決まりがある。票が細かく割れると誰も当選しないということが起きるため、一つの選挙区に沢山の候補者が立つのは稀である。したがって、政策の似通った極左、社会党、共産党などは左派連合を組み、また多種の右派が集まって連合としてまとまり、それぞれの候補者を出すことが通常となってきた。
しかし極右フロン・ナショナルは別だ。フランス人至上主義を掲げ黒人やイスラム系の移民排斥、ヨーロッパ連合反対、中絶廃止、死刑復活などおよそ時代を逆行する志向は、フランスの右派も受け付けない。したがって、フロン・ナショナルが右派連合に加わることも(今のところ)ありえず、1972年の創設以来単独で闘ってきている。今回、フロン・ナショナルは投票率で人気2位であった。にもかかわらず、98県中一県も政権掌握がかなわなかったのはなぜか。その裏には、「過半数獲得」という規約が立ちはだかっていたからである。翌30日、フロン・ナショナル党首マリーヌ・ルペンは、「ノール・パ・ド・カレで42%、ピレネー・オリアンタルで40%の支持率を得ていながら勝てなかったのは、選挙制度が悪いからだ。制度改革を要求する」と批判した。
獲得票の差による当落ではなく、過半数獲得という制度。日本が今悩んでいる選挙区による票の格差などは問題から外れる過半数性のほうが、より民主主義的ではないのだろうか。現実に今回の選挙では、社会党と右派国民運動連合UMPが獲得票数がほぼ同数であったが、双方とも50%を満たさなかったため左にも右にも軍配は上げず、という県が出現している。ここでは、左派右派を均等に配してこれまでなかった新しい議会組織を作り上げていく努力をしていくそうだ。民主的な選挙がより創造的な政治局面を欲しているということになるのだろう。
2015年フランス地方統一選挙の結果は以下の通り
お馴染みになった色分けのフランスの「県」地図。青は野党右派(UMP中心)のなだれのような勝利を示す。ピンクは与党社会党。
矢印の入っている県は、これまで与党左派、主に社会党の地盤であった県で、今回右派が県政を掌握した。右派へ変わった県は26を数える。一方右派から左派に変わったのは一県、ロゼールのみ(ピンクの矢印が入っている県)。
赤は共産党、濃い赤は極左政党、グレーは当選無しの県。濃紺のフロン・ナショナルが県の塗りわけから消えた。左上のイル・ド・フランスの略地図でパリが白く抜けているが、パリ市は社会党市長が牛耳る(本来はピンク)。パリの西郊外のオー・ド・セーヌ県はUMP(青)、北東は社会党(ピンク)、南東ヴァル・ド・マルヌ県は共産党(赤)だ。
県議の選挙を終了し、今週木曜日に県知事を選出する選挙が行われる予定。
下は2011年の選挙結果地図。極左政党の県が4県あった。
フロン・ナショナルは、県政を獲ることはできなかったが、細かく分かれた選挙区で当選しており、合計で62議席を獲得。29日の決選投票では、一回目より支持率は後退を見せ全国平均22%を獲得、相対的にみて前回より4.55%の支持率上昇を記録した。
下の図は、選挙区でみる政党別地図。濃紺の選挙区はフロン・ナショナルが議席を獲得した区。
厳しい社会党の大敗
与党社会党の大敗は、たとえばオランド大統領の地元コレーズでは、チュルの市民が、「オランド大統領は公約は沢山したけど、ほとんど実現してくれなかった」と不満を表明。右派の手に渡ってコレーズを地盤とするシラク一派を喜ばせた。また社会党は、外務大臣ローラン・ファビウスの地盤セーヌ・マリティーム、環境大臣セゴレヌ・ロワイヤルのドゥー・セーブル、首相マニュエル・ヴァルスの地盤エソンヌ、マルチーヌ・オーブリィ(リール市長)のノール、その他ローヌ・アルプ(リヨン)など重要な拠点となる県を失う憂き目をみた。18年間社会党の県政にあったエソンヌで立候補した社会党議員は怒りを抑えきれず、「とにかく政策を変えないと、どんどんだめになっていく」。
2012年から4回目の敗退となる社会党は、2017年の大統領選に向けて苦戦を強いられることは必至。今回の選挙の結果にもかかわらず、内閣改造はしない見込み。
サルコジ路線へ拍車
返り咲いた後も何かと批判の多かったニコラ・サルコジは統一地方選の圧勝でサルコジ路線の正当性を得たかたちとなった。UMP内部で対立をうわさされるフランソワ・フィヨン、アラン・ジュッペとの合議がどの方向へ進むか注目される。
下の図は各党の当選県議数。
(フランスTVINFO)
My opinion No2 : 社会党の地盤の喪失はアートにとっても大きな喪失となりかねない。「社会党は、外務大臣ローラン・ファビウスの地盤セーヌ・マリティーム、環境大臣セゴレヌ・ロワイヤルのドゥー・セーブル、首相マニュエル・ヴァルスの地盤エソンヌ、マルチーヌ・オーブリィ(リール市長)のノール・・を失った」。このうち、セーヌ・マリティームではノルマンディー・アンプレッショニスト・トリエンナーレ、ドゥー・セーブルではメル現代アート・ビエンナーレが著名で、エソンヌはパリ近郊で最も現代アート企画が盛んな県である。そうした現代アート展の企画をサポートしてきたのもこれら社会党の大臣たちだっただけに、非常に先が思いやられる。(S.H.)