フランスから―環境とアートのブログ

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フランス、現代文化政策の終焉か?

新文化省にみる現代文化政策崩壊のきざし - ニコラ・サルコジが大統領に就任した年(2007)の12月に発案されていた文化省の再構成が、2010年1月13日、実施の運びとなった。それまで10の各文化・芸術分野の専門の管理局があったが、4つにまとめられて「見通しの良い管理構成を持つ目的で」あたらしい文化省が発効した。(政府の文化エキスパートの放逐と文化行政部の縮小とみられる。) 新たな文化省の構成は以下のとおり。 ・Le secrétariat général(事務総局)、 ・La direction générale des patrimoines(文化遺産局)、 ・La direction générale de la création artistique(芸術創造局)、 ・La direction générale des médias et des industries culturelles(メデイア・文化産業局)、 省間庁: Délégation générale à la langue française et aux langues de France(フランス語とフランスの言語総合庁) 地域の文化省: ・Directions régionales des affaires culturelles(DRAC 地域文化振興局) ・Services départementaux de l’architecture et du patrimoine(建築文化遺産に関する県内サービス) ・Les établissements...

ネットワーク

文化省の造形芸術庁は、アーティストの活動サーキットを多様化することにも尽力した。 もちろん画廊システムが存在し、あちこち公の展示場もあり、アーティストが発表活動ができなかったわけではない。しかし、画廊はマーケット中心に動いているから、作品の選択も新しいアーティストの採用も、利益優先で行うのが常である。 したがって、ほんとうは多様なはずのアートはいってみれば経済にふるいにかけられて極限され、一般の目に触れるアートは流行一辺倒に陥りがちだった。この意味で、マーケットも負けずに閉鎖的である。 そうした商業中心の芸術市場の間口の狭さに注目した文化省は、まったくマーケット基準から離れ、新しく生まれるアートがそれなりに形になり、きちんと人の目に触れられる活動の現場をつくることに力を入れ始めた。新しい世代のアーティストの育成を目指して、文化省がもうひとつの活動様式を提供したといえるだろう。 地方には80年代、すでにいくつか大きなセンターが現代アートの活動をそれなりに行っていたが、文化省が声をかけて彼らの活動に援助金を回すしくみを敷設した。もとは地域のバックアップのものもあり、また町のものもあり、アソシエーションのものもあったが、ほとんどがしっかりした規模の活動をすぐさま発展させられるような施設の整った現代アートセンターが選ばれ、「文化省つきの現代アートセンター」という総称をもってネットワークを形成したのが80年代後半の話である。これらの現代アートセンターで受け入れるアーティストは、マーケットの外で自由に創造活動するアーティストでなければならず、そのアートはそこで今新しく生まれるアートでなければならなかった。 ばらばらだった現代アートの現場は、こうしてまとめられていき、そのことによって現代アートセンター自身も使命感を増幅していった。文化省つき現代アートセンターの連携は90年代にはりるとまたたくまに、ドイツやイタリアの現代アートセンターまでのび、ヨーロッパのアーティストの巡回やイクスチェンジの場ともなり、ようするにフランスの現代アーティストをヨーロッパに送りだす窓口の役割を担うまでになったわけである。(S.H.) CNAP-国立造形芸術センター登録、全国87箇所の現代アートセンター、住所録ページ Annuaire de 87 centres d’art contemporain en France (CNAP)

現代文化、れきしの点と線 - 芸術1%

芸術1%(アーティスティック1%)とは、公共建造物の建築あるいは改築改造などが行われる場合、その建設バジェットで環境に見合った美術作品を制作あるいは買い上げることを取り決めた政令のことをさしている。 歴史:フランスでは1951年からこの制度が出現しているが、80年代の新文化省は1%アーティスティックを、文化省が決めたインスティテュートとはまた別の「アートと一般が接する」プロジェクトであり、「アーティストの生活と税制ステータスを助けるシステム」と改めて明確にし、まずは造形芸術庁(DAP: Délégation aux arts plastiques)がこれを采配した。ちなみに造形芸術庁は、1.芸術創造の支援システム、2.現代芸術を将来の国の財産として買い上げていく、3.あらゆる方向の芸術が生まれる可能性を増やすための活動サーキットの創造と増幅、のおおよそ三つの大柱を中心に推進し、80年代半ば国立造形芸術センター(CNAP: Centre national des arts plastiques)を作り、造形芸術庁と連携したかたちでその活動を現実へ向けて立体化している。 1990年代は1993年の経済恐慌の痛手に伴い建設計画も激減し、数少なかった1%プロジェクトはいよいよ水面下にもぐりほとんど公募が消滅した感がいなめなかった。 21世紀にはいり、ようやく2002年、シラク(保守)政権下ジョスパン内閣(社会党革新派中心、1986年とは逆のあらたな保革共存時代)が改めて1%に関する政令を見直した。このとき、1%の管理はDRAC(Direction régionale des affaires culturelles 地域文化振興局-各地域に設置された文化省管轄の文化活動支援局)に渡されている。2002年のこの政令は2005年2月4日、ラファラン内閣時(文相はジャン=ジャック・アヤゴン)に改定され、1%アーティスティックを義務制度として再発令した。2006年8月16日に文化省が実際の手続きを全国に通達して今日に至っている。 義務化した1%アーティスティックは2006年以降、当然のことながらプロジェクトの量を増やしつつある。公共建造物は国のみならず、地域(Régionと呼ばれる数県をまとめた地域のことで、関東地方や関西地方のような分割に当たる)、県、市町村が所有するものが多い。たとえばフランスの公立学校の管轄を例に挙げると、高等学校は地域、中学校は県、小学校・幼稚園は町が管理し、新設校の建造や旧校舎の再建はそれぞれの管理者が行うきまりとなっている。そうした教育施設の新築再建築に伴い発生する地方の1%を、当初は文化省の地域担当官であるDRACが引き受けた。しかし今日は、文化省にたよらず、地域議会や県議会が独自に1%プロジェクトを采配するところが増加しており、そうした公共団体は直接一般へ公募でアートプロジェクトを募っている。 地方の自立傾向は、こうした1%プロジェクトのアート選びにも見受けられる。これは政府が文化のみならず、政治その他の体系を分権化(Décentralisation, Déconcentration)しようとして長年政策を進めた賜物のひとつといえるだろう。 2008年あたりから、1%アーティスティック・プロジェクトのバジェット増加が少しずつはじまった。物価高騰によるところが大きい。