新文化省にみる現代文化政策崩壊のきざし - ニコラ・サルコジが大統領に就任した年(2007)の12月に発案されていた文化省の再構成が、2010年1月13日、実施の運びとなった。それまで10の各文化・芸術分野の専門の管理局があったが、4つにまとめられて「見通しの良い管理構成を持つ目的で」あたらしい文化省が発効した。(政府の文化エキスパートの放逐と文化行政部の縮小とみられる。)

新たな文化省の構成は以下のとおり。

・Le secrétariat général(事務総局)、
・La direction générale des patrimoines(文化遺産局)、
・La direction générale de la création artistique(芸術創造局)、
・La direction générale des médias et des industries culturelles(メデイア・文化産業局)、

省間庁:

Délégation générale à la langue française et aux langues de France(フランス語とフランスの言語総合庁)

地域の文化省:

・Directions régionales des affaires culturelles(DRAC 地域文化振興局)
・Services départementaux de l’architecture et du patrimoine(建築文化遺産に関する県内サービス)
・Les établissements publics sous tutelle(外郭公共施設)

1981年の開設以来、現代アートのメセナといわれて、アトリエ建設、展覧会援助、カタログ援助、1%プロジェクト、パブリック・アート、アーティスト・イン・レジデンスなどの窓口でありつづけたDélégation aux arts plastiques (DAP 造形芸術庁)は、数年をかけて徐々にその役目を地域文化振興局(DRAC)へ移し、2010年1月、音楽・ダンス・劇場・スペクタクル局と合併させられ、La direction générale de la création artistique(芸術創造局)となって事実上消滅したかたちとなった。(ちなみに文化省の公式サイトのLa direction générale de la création artistique 芸術創造局のページは発効半年経ついまもまだ何の説明もない。)

現在、アトリエ建設や展覧会援助などの役割を文化省の地方分権化の成果とも言うべき地域文化振興局(DRAC)が行っているが、イル・ド・フランス地域のDRACはこの7月小さい建物へ引越しをする。近い将来これら全国の地域文化振興局(DRAC)も廃止が決定しているという。イル・ド・フランスのDRAC引越しは、まずDRACのなかでも一番大きい中央の機構を「窓際へ」ということのようだ。

My opinion:
1981年以来、文化省を10(10局の内訳は、文化大臣および時勢によって分類が少しずつ変化している。ちなみに2002年のジャン=ジャック・アヤゴン文化相下では、ダンス・スペクタクル・音楽・劇場、美術館、書籍・購読、フランス語、映画、文化敷衍活動、アーカイブ、造形芸術、建築・文化遺産、国際交流の10局)に分けてそれぞれの文化方面に適したきめの細かい部署を作り、局内にエキスパートを育成しながら(移動を極限におさえ一人の人間が常に一つの部署を切り回すことで専門化していく)、複雑化する「現代」へ対応しようと努力してきた国の現代文化のインフラストラクチャーが、サルコジ政権下、こうしていかにも簡単に崩されてしまった。 きめの細かい部署の発展は、過去そして未来へ向けて時代に対応すべき複細胞型を目指したものであったと思うが、この複細胞型の思想と構造を、「芸術創造」というかたちで政府が一つにひっくるめ、おざなりな単細胞にしてしまったことに、一個の外国人の私ですら無念を感じずにはいられない。
現代アートの専門でありかつメセナの庁であったDAPが徐々にその役割をDRACに移していった時期、DRACは過重な仕事を課せられて汲々としていたという話を聞いている。仕事は増えたが仕事に見合った人員は添加されなかったからだ。こうしてDAPの仕事を引き受けたDRACがこんど廃止されることになると、それと同時に現代アートへの政府メセナも終焉を迎えることになる。「近い将来」がいつなのかははっきりしないが、ミッテラン政権以来の現代アートの政府メセナは、DAPという大動脈を失い、DRACという末端神経を失う寸前にあるということがいえるだろう。
幸い、地方公共団体である地域・県・市町村の現代文化活動が活発化して活動の自立が見られるが、国という経済的援助のみならず精神的また専門的な大きな背景が消えることになると、どうなるのやら。
サルコジ大統領は就任以来、一度もオルセー美術館へ出向いたことはないそうだ。文学の話しをすると「それがなんの役に立つ?」と言い返す。フランスの大統領は文化に造詣が深いのが伝統だったが、フランスの伝統を壊す大統領は現在、国民の支持率最低を記録している。教育者削減、病院への援助削減、年金法改正(改悪)などで、福祉が大幅に後退。重税、物価高騰で貧富の差が開き、いまや国民の13%が金がかかる医療(歯科、眼科など)をしない、などという統計が出ている。2012年の大統領選に野党から誰が出馬するか、すでに大きな議論の的となっている。

ちなみに現在の文化大臣は、フランソワ・ミッテランの甥に当たるフレデリック・ミッテラン。(S.H.)