オランド大統領、支持率急上昇

今年1月15日、16日世論調査でオランド大統領の支持率が21%近く急上昇し、国民の40%が大統領に満足していると答えた。昨年暮れ12月の世論調査では19%の支持率しかなく、歴代大統領のうち最低を記録していたが、シャルリ・エブド本社の銃撃テロ事件後の素早い対応と解決、ならびに1月11日のヨーロッパやアフリカの首脳を結局60人近く集め、市民400万人の大行進で「共和国の価値(自由、平等、友愛)」を見せつけ歴史を刻んだ手腕に国民が敬意を表したもの。
ル・モンド、1月19日付電子版はこちら 

「1991年の湾岸戦争のときのフランソワ・ミッテランが19ポイント伸ばしたの以外に当代稀な支持率の上昇ぶり」と専門家は語る。マニュエル・ヴァルス首相も17ポイント伸ばし、支持率は61%となった。

テロ対策、ヴァルス首相が発表

20日、ヴァルス首相は、テロ対策に4億2500万ユーロをつぎ込むと発表した。まず、テロ関係を扱う公的人員の増員を、内務省関係1400人、司法関係950人、防衛省250人、財務省80人の内訳で、3年で達成を目処に行う。国家警察や憲兵の武装充実については、車両、防弾チョッキ、拳銃、高性能の自動小銃などを購入し装備させる。またこれまでも武器を持たせるかどうかで論争となっていたが、モンルージュ市警察の警官が抵抗もできないまま殺されたのを受けて、市警察にも武器を持たせる運びとなるという。

スパイ・リクルート作戦

これまでの調べで、フランス領内に3000人もの危険人物が潜在していることが判明した。これらの危険人物の監視を強化しなければならず、盗聴技術や追跡技術を高め、行動を逐一把握しておくことが必要だ。必要に応じて秘密裏に調査を行える100人ほどの「スパイ」のリクルートをする運び。ほとんどは警察や憲兵隊からの志願者の中から選ばれる見通しで、外国語も含めいろいろな才能技能が要求される。「まず、記憶力を要求されました。たとえば何回も記憶した内容を聞かれ、3日後に同じ内容を正確に言えるかどうかなどの審査がありました」と、過去にスパイ雇用試験を受けた人。また隠しカメラや隠しマイクその他の装備の必要性に応じて、例えば服に隠しマイクを埋め込む裁縫家や植木にカメラを仕込む植木屋などの一般職40種の技術者も雇用すると発表した。(フランス2TV)

教育の現場で討論が続く Je ne suis pas Charlie

自分が信じているものをあるいは愛しているものを人から不用意に貶められたら、自分はどういう気分になりどういう行動をとるだろうか。バチカンのフランチェスコ教皇は「信仰の敬虔な心を嘲笑したり侮辱するのは良くない」と表現の自由に一線を引いた。また、フランスの中学高校には、アンチ・シャルリがけっこういる。シャルリ・エブドに載る風刺画の度合いに注目し、「ぼくは、絶対いきすぎだと思う」という反応の子供たちも少なくはない。それまでシャルリ・エブドを知らなかった人たちも1月16日に発売されたシャルリ・エブドを買いにキオスクに朝早くから並んだ。そして内容に驚いた人も多い。

ある高校生は教室の討論の場で、「表現の自由や、テロの意味も分かるが、自分が私はシャルリ、とほかの人が言っているように言えるかというと、いえない気がする。私はシャルリではない、と言いたいほうだ」。本来宗教の戒律や道徳の中ではあってはならないことをマンガにして笑うという風刺は、シャルリ・エブドに限らず、昨年ステージのうえでユダヤ人をガス室に入れて殺すというシナリオを漫才にしたデュー・ドネが、その内容がユダヤ人迫害に通じるとして拘留されたことを思いだす。一方は、表現の自由、一方は拘留では、理にかなわない、と子供たちも言う。表現の自由について、学校での討論がまだ続いている。

黙祷を拒否した生徒の反抗がきっかけで先生が制御しきれず混乱が続いて授業が困難となっている学校に一昨日、教育相が介入した。教育相は、普段の生活で人に「敬意を払う」気持ちを養う社会教育、倫理教育がなされるべき、とした発表をし、先生が教室に入ってきたら全員起立して迎えるなどの行儀教育に言及するまでに至った(フランス2TV)。これに対し一部では、混乱を抑えきれず、上から「黙りなさい!」の押し付けか、という皮肉な見方もでた。

フランスはLaïcité(ライシテ、無宗教性、政教分離)を一般市民生活の場や学校教育の場でも主眼としており、公共の学校内で教育に宗教的色合いを持たせないのがモットーだ。ヨーロッパが血の海になった16世紀の宗教戦争、近代ではユダヤ人迫害や虐殺を経験してきた歴史の上に彼らのライシテは立っている。

フランソワ・オランド大統領は、今回の事件に関連して「表現の自由」の底には、いかなる宗教も迫害する意志は無く、またあってはならないことを伝えるべく、問題をかかえる学校の代表者たちにライシテの記念日にむけてその理念を改めて認識し伝播するよう述べた。

(S.H.)

テロ事件のあらすじをビデオで(英語)