テロリストと見なされるフランス人のフランス国籍抹消法を明文化して憲法改正へ、論争激化と政府回答

同時多発テロで130人が殺された3日後の11月16日、オランド大統領がベルサイユ会議で発表したテロ対策のうち、危険人物と見なされた人間のフランス国籍抹消の拡大案を新しく憲法に盛り込むことについて、各方面特に社会党内部から反発が寄せられている。

国籍没収の内容は「テロリストとみなされた人間のフランス国籍を抹消させる。たとえフランスで生まれたフランス人であっても、危険と特定した場合は、国はその人物のフランス国籍を取り上げることができる。二重国籍の場合も同様で、国外追放を義務とする」というもの。社会党や共闘左派のあいだからは、「フランス社会主義の人道的な人間の価値観をないがしろにした右よりの判断」という批判が上がっており、法務大臣のクリスチアンヌ・トビラが数日前訪問先のアルジェリアから、「フランス国籍抹消の拡大案は放棄される」と表明していた。しかし、オランド大統領は昨日、反対意見を退け、国籍抹消の拡大案をそのまま続行して憲法改正へ持ち込む方針を明らかにした。

国籍法は、フランスで生まれた場合はフランス国籍を取得すると約束する「Droit de sol/ Right of Soil(Jus soli)=出生地主義(国籍法の日本語用語)」がある。今回は、危険人物と見なされた場合にフランスで生まれたフランス人も国籍を没収・抹消させるという国籍抹消の範囲を拡大した条項を憲法につけ加えようというのが政府意向だ。

この条項を付け加えるための改憲は、将来個人の自由の尊厳に大きな禍根を残すことになりかねない。ジロンド県の社会党市長ジャン=マリー・ダルミアンは、「自分も祖父母の時代、イタリアのムッソリーニ政権から亡命してきたイタリア移民であったから、この法が将来エスカレートした場合、たとえば私の家庭がムッソリーニ政権の回し者であったと嫌疑をかけられて国籍抹消をする、といわれるような時代が訪れる危険性も考えられなくはない。フランスにやってきてフランスに取り込まれ、代々この国の社会の一員として暮らしてきた個人の自由が、将来侵害される危惧が生まれる」。続けて「国籍没収は、まったくテロ対策とは無関係の罰であって、対策として有効とは考えられない。国籍如何にかかわらず、国内で罪を犯したものはそれに見合った法を適用し、厳しく罰すればいいではないか」として、国籍没収とテロ対策の関係の希薄さを協調した。「この案の審議のあいだ私は、社会党党員としての職務を離れ、政府の行方を見守るつもりだ」として、政府へ強い反対の意思表明をした。

実際、フランスで生まれたフランス人の国籍没収、あるいは出生地主義(生まれた土地の国籍を取得できる国籍法)を消滅させたがっているのは、極右政党のフロン・ナショナルだ。「フランスで生まれた外国人と二重国籍のフランス国籍抹消を昔から提唱してきたのは、我々フロンナショナルだ」と、ガール県の極右政党議員ギベール・コラール。「この案は必要な案なので、憲法改正の投票時には賛成票を投じる」とまで約束した。

国籍抹消の拡大案を憲法に加えることへ反対を唱えた法務大臣クリスチアンヌ・トビラは、一部の右派に辞任を迫られるほどであったが、「最後の決断は大統領にあり」としてオランド大統領の採決に従う方向で決着したもよう。

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クリスチアンヌ・トビラ法務大臣

Le Parisien「国籍抹消拡大案は、テロ対策としてほとんど有効ではない」とのべるトビラ法務大臣 12月22日

元テロ対策司法官のマルク・トレビディックMarc Trévidicは12月24日、国籍抹消について次のように述べた。「ほかの国、例えばモロッコでモロッコとフランス国籍を持った人が突然モロッコ国籍を抹消されてフランスに来なければならなくなったという状況を考えると、分かりやすいのではないですか。今回フランスがフランス国籍を抹消した人間が、ほかの国へ行く、つまりフランスはテロリストを輸出するということになる」。(LaVoix du Nord)

右よりの政策へまっしぐらのオランド社会党政権は、社会党市長ジャン=マリー・ダルミアンがいうように、「先日の統一地方選挙で危険な世論の台頭が各地で見えたこの重要なときに、実質的効果がなく、またこれまでフランスに組み込まれて生きてきた人たちの連帯を崩す恐れのある国籍抹消の立法化で、更なる将来への危惧が生まれる」と、2017年の大統領選を視野に入れた懸念を表明している。

(ITELEニュース)

My opinion: ちなみに、最近の世論調査では極右フロンナショナルのマリーヌ・ルペンが大統領候補で1、2位を争う人気を獲得。今の社会党よりは将来の右政権の新法の活用が恐ろしい。