(レ・ゼコーとボザールの二つの記事から)

 より「開かれた」、より「子供向け」、より「参加型」に向かう現代の美術館。私たちの知っている美術館は消滅していくのだろうか?

「約200年前に生まれ、物によって知ることを伝える場として公共へ開かれたミュージアムは、やがて廃れようとしているらしい。ミュージアムの規定さえ曖昧になり、その呼び名もMuCEM、 MuMaや、MAXXIなどと簡略化されてそのものの名前で呼ぶことさえ避けられるようになった。テクノロジーや社会の劇的転換に捉えられ、私たちが今まで不変であると考えてきた機構は時代遅れになったということだろうか。」(ジュネーヴ、芸術歴史博物館 MAHで開催された『21世紀のミュージアム』展のシンポジウムでアルトワ大学の社会学者で博士課程« Expographie Muséographie »責任者のセルジュ・ショーミエによる問い。)

知の殿堂であり審美高揚の場である伝統的なミュージアムは、ますます人々を惹きつけなくなった。硬すぎる、知的でありすぎるなど理由はあるだろうが、時代の反映であり、理性を伝える道具としてのミュージアムは新しいモデルを必要としている。経済、社会、あるいは環境の危機的時代のミュージアムの姿とは一体何だろう。ナポレオン戦争時代から政治的ディスポジティヴであり帝政の文化および議論の場であり、例えば芸術の国家的ヴィジョンを促すムーヴメント形成など、少なくとも我々が知っていたその正当性は今日、どのように変貌しようとしているのか。

セルジュ・ショーミエは言う。

「21世紀のミュージアムは、枠や境界を外し、図書館や劇場、研究施設、ショッピング、庭園などを抱合したハイブリッドな娯楽の場となる。コンサートやダンス、ヨガなどもできるようなハイブリッド娯楽施設だ。

そこではミュージアム(美術館・博物館)の機能は背後へ押しやられ、収蔵品は美術館の中心的存在ではなくなり、叡智を受け継いでいく場ではなくなっていく。一方で、展覧会は実験的なものが増え、そこでは鑑賞者は鑑賞するだけではなく参加していくものとなる。特に現代美術館は、変容可能な広い空間を持ちパフォーマンスや一般人によって活動が成り立つようになるだろう。ミュージアムの仕事が多目的化するために、学芸の権威(ことにフランスは堅固な職種枠がある)が問題化してくるだろう。

このパラダイムの中では、物はそれぞれ目的が違うものたちの口実として利用され、知ることと知らないことの関係が転覆していく傾向を見る。我々は今日、知識の水平なシェアへと向かい、そこでは鑑賞者自身が変化を誘導する者となり、種々の文化のつながりが見えてくる。

事例:ダコタ先住民の感情を逆なでする作品に関して起きた論争。( la polémique autour d’une œuvre heurtant la sensibilité des populations autochtones Dakota

発明する建築へ

これらの新しい実践と意欲は建物のコンセプションにも多大な影響をもたらしている。ジュネーヴのMAHにおける展覧会では15ほどの例を見た。今日、重要な地域や場所へ建てられるミュージアムの政治的な意図と主張は重大なものがある。2016年に開館したヨルダン川西岸のビルゼットのパレスチナ・ミュージアムがその好例だ( expositions virtuelles sur le web)。他にイラクのクルディスタン・ミュージアム(建築家Daniel Libeskind)、2009年開館のアテネのアクロポリス・ミュージアムがある。

殊に危機的時代の新しいミュージアムは、緊張状態を結晶させる力を持つ。Zeitz MOCAAは、南アフリカで今年開館予定だが、私立ミュージアムにもかかわらずその建築費用へ非難轟々である。ヘルシンキのグッゲンハイム・ミュージアム建設は一般投票が行われ、やはり高価すぎる建築費用のために取りやめとなった。

一方で、雨後の筍のようにミュージアムを建設している国もある。中国では、一年間に300館ものミュージアムを建設した。エミレーツでは水上美術館が増え、中でもLouvre Abu Dhabi が今年開館する予定だ(数年の遅滞の後)。

虚空間に置き換えられたこれらの建築は、エンターテイメントの現場であり、豪華都市の延長線上にある必要不可欠の宝石となる。… 狂気が一般化し、ミュージアムの意味を空洞化させ、その収蔵品も単に引き継がれていくだけの装飾品と化していき、鑑賞者はウロウロと彷徨することに。ミュージアムの未来、それは空っぽのミュージアムだろうか?

 

MVRDV, Projet pour le China Comic and Animation Museum

MVRDV, Project China Comic and Animation Museum

 

 

 

 

 

Vue de l’exposition « Graffiti », Brooklyn Museum

Vue de l’exposition « Graffiti », Brooklyn Museum.

MAD Architects, Pingtan Art Museum

MAD Architects, Pingtan Art Museum

ニュースソース:ボザール電子版、2017日6月27日、

https://www.beauxarts.com/grand-format/vers-la-fin-du-musee/

「ジュネーブ、歴史博物館で開かれている『Musées du XXIe siècle 21世紀の美術館』、建築からプログラムまで、現在の文化の大転換を 分析する」(2017年5月11日から8月20日)より。

Musée d’art et d’histoire de Genève • 2, rue Charles-Galland • 1206 Genève
institutions.ville-geneve.ch

 

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 フランス各地でミュージアム開館

(ニュースソース:Les Echos)

地方への文化財政カットにもかかわらず、200の美術館プロジェクトが進行中

クリストフ・クレマン(文化省ミュージアム政策局)が、そのうち 60 から 80 のプロジェクトがすでに実行へ移されていると発表した。

すでに6月中旬、ナント美術館の改築、ル・アーブル自然史博物館、ペルピニャンのHyacinthe Rigaud 美術館、トゥールーズ・ル・シャトーのストリート・アート美術館、Blérancourt 仏米美術館の増築の5つのミュージアムが工事を終了。さかのぼってこの春、ノジャン・シュール・マルヌにカミーユ・クローデル美術館が開館。トゥールーズポスター美術館拡張工事、ジアンの狩猟と自然博物館の改築、ピュイ・アン・ヴレのCrozatier博物館改築が終了している。

 

これは新政権から始まったわけではなく2016年からすでに、ポンタヴェン美術館改装 (8百10万ユーロ)、コルマールのUnterlinden 美術館 (2千百万ユーロ)、シェルブールのトマ・アンリ美術館 (3百58万ユーロ)、ノール県サルス・ポトリのミュヴェール工房美術館建設 (9百50万ユーロ)、オービュソンの国際タペストリー都市 (8百50万ユーロ)が建設中である。

町や県が主体となり稀に州の支援もあるが、これらの運営の15%から20%は国の後押しの恩恵に浴している。そのために教育並びに科学水準規定を満たした上、「フランスのミュージアム」ラベルを取得していることが不可欠である。現在、全国1224の施設がこのラベルを有しており、クリストフ・クレマンは「フランスは独特の美術館風景」を提供していると述べた。

バジェットが必ずしも大きくなくても、高度に専門化されたセクターでは、質が高い。
施設の建築は高名な建築家によるものが多く、クロザティエ美術館をBeaudouin Architectesが、カミーユ・クローデル美術館にはAdolfo Scaranello、Unterlinden 美術館にMeuron、ナント美術館にStanton Williamsという建築家たちが携わった。

文化政策オプセルヴァトワール(l’Observatoire des politiques ­culturelles)の2015−2017年白書は、フェスティバルやイベントに比べると美術館と文化遺産分野への地方財政削減のインパクトは少ないと発表した。実際、美術館への動員数は2009年から2011年にかけ、5千6百万人から6千5百万人に膨らんでいる。2015年のテロは美術館参観者の数を6千1百万人まで減少させはしたが、この著しい増加が行政を納得させないわけはないのである。

地域連携のベクターであり観光の動力でもある地方美術館開館が続く中、そうした美術館と関わりの深い施設が閉鎖されないよう、財政への配慮も行われている。

サロンSitemの創立者ジャン=フランソワ・グリュンフェルドは、「美術館が発展した部分は、経済面で、マーケッティグとその民営化、ブティックやデジタル化によるクライアントの情報化でしょう」という。美術館コネクションのシンポジウムにおいて、Arteumの代表ロレーヌ・ドーシェズは「美術館は自分を商標化することを怖がらなくなった」と指摘している。

【ミニ情報】

・ノジャン・シュル・セーヌのカミーユ・クローデル美術館は、年間 50.000 から 100.000 人の参観者を見込んでいる。美術館は作家の若い時からの作品39点(市の所蔵品)を展示。石膏からブロンズまでのアトリエも披露する。

・ペルピニャンのイアサント・リゴー美術館。630万ユーロをかけた3年の工事で竣工した美術館は 4300平米という広さ。 ゴシック、バロックから近代までを考証し、歴史的な街並みの中に佇む。

・トゥールーズのマトゥ(Matou)。ポスターやデザインを中心とした珍しい美術館。205 000 点に上る収蔵品を誇る。

・ブレアンクールにある仏米博物館。独立戦争以降の仏米の外交関係史に関する資料館。1.000 平米から 2.000 平米へ、1千4百マンユーロ(うち2百万ユーロはアメリカから)をかけて拡張工事をした。その際に発掘された遺構も展示に含まれる。

・ニコラ・プッサン美術館。17世紀のフランス画家プッサンの美術館が日の目を見た。絵画研究者であり画家であるピエール・ローゼンベルグの尽力によるものでその1000点のコレクションを寄贈。町、県、地域、州及び国のバッックアップによるEPCC (établissement public de coopération culturelle)になる予定。

 

情報ソース:Les Echos、2017年6月26日

MARTINE ROBERT Le 26/06 à 16:32

https://www.lesechos.fr/pme-regions/actualite-pme/030410476523-des-ouvertures-de-musees-aux-quatre-coins-de-la-france-2097545.php#oJiH5aPcLc2Ixckd.99